合言葉は「ごきげんようぎょ!」。珍奇を見るなら…静岡・幼魚水族館

今、水族館が面白い!世界有数の水族館大国である日本には、世界初の発見や環境保全の取り組みで国内外をリードする大型から、街中でふらりと通える洗練された都市型、特定の種を集め知的好奇心を刺激する特化型まで、個性の強い水族館があふれている。そして、その中心はもちろん、かわいくて、不思議で、驚異的で、生命の神秘が詰まった生き物たち。推しの生き物が見つかったら、今すぐ水族館へ!

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photo: Satoshi Nagare / text: Asuka Ochi

謎に満ちた魚たちの世界をたくましい幼魚を通して感じる

幼少期から漁港の岸壁で稚魚や幼魚を観察して過ごし、その“たくましい生きざま”に魅せられたという、岸壁幼魚採集家で館長の鈴木香里武さん。自らが感じた魅力を多くの人に発信したいと「ごきげんようぎょ!」を合言葉に、2022年、世界的にも珍しい幼魚専門の水族館をオープンした。

小さな体で水槽の中を懸命に泳ぐ魚たちは、それだけで応援したくなるほどかわいい。そして、その世界は奥深くて、単に大人と比べてサイズが違うというだけでなく、姿形にも幼魚ならではの不思議な生態が隠されている。例えば、海面に浮かぶ枯れ葉や軽石に擬態して敵から隠れたり、成魚同士の縄張り争いに巻き込まれないように模様を変えたり、そこには小さな体で生き抜くために、進化の過程で編み出された様々な工夫がある。館は、同じ魚の成魚と幼魚を並べた比較展示や、幼少期を浅瀬で過ごす深海の幼魚の生体展示など、ほかの水族館で見られない珍しく不思議な水槽であふれている。同じ魚が生まれてからどのように変化していくかもわかるのだ。

「ここでは魚を種ではなく“個”として捉え、一匹一匹に愛情を注いで育てています。毎年3月に成魚となった魚が第二の“魚生”を別の水族館で過ごすことができるように送り出す“卒魚式”も開催していますが、魚との思い出に会場が涙することもあるんですよ」

とは、広報担当の石垣幸二さん。85坪ほどと限られた規模の水族館だからこそ、客とのコミュニケーションにも重きを置く。鈴木香里武館長自身の手描きによるイラスト付き解説パネルも、ハナヒゲウツボに「生命が宿った新体操リボン」、モンハナシャコには「瞬殺のボクサー」といった具合だ。時折ギャグなどを交えながら、難しい生態を楽しく知ることができるのも館の特徴だ。

「幼魚の時の方が、身を守るためにいろいろな工夫をしている。そこが興味深いところですが、コンゴウフグは真逆で、大人になってから食べられないように身を守るための角のトゲが前後に出てくる。進化の過程を裏切る生物もたくさんいる。それが面白いんです」

一見、似て見える魚も、種の数だけ異なる珍奇な特性があり、さらに個々に個性を持つ。幼魚たちが与えてくれるのは、多様性に満ちた生き生きとたくましい世界だ。

静岡/清水町・幼魚水族館
カラフルな展示室。人工繁殖によって誕生し、食卓に並ぶ生き物、水辺の幼魚のコーナーも。

ごきげんようぎょ。小さくて不思議な幼魚たち