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〈よこはま動物園ズーラシア〉園長・村田浩一。動物の方舟を野生に戻すために、何をすべきか

稀少な動物を飼育・展示する背景には「絶滅の危機にある種を保全する」という動物園の大切な役割がありました。動物たちを乗せた“方舟”は、これから先、どこに向かう?

photo: Kei Taniguchi, Zoorasia / text: Yuriko Kobayashi

2021年、〈ズーラシア〉では繁殖センターと共同で、国内で初めて腹腔鏡を用いた人工授精によってツシマヤマネコの繁殖に成功した。また同センターでは、野生ではバリ島に数十羽しか残っていなかったカンムリシロムクの自然繁殖にも成功し、これまで160羽を現地に送るなど、種の保全を牽引し続けてきた。

「どの動物をどのくらい増やすかは世界中の動物園が連携して、種ごとの遺伝的多様性を加味したうえで厳格に決められています。そう言うと、動物園が“ノアの方舟”のように受け取られがちですが、すべての動物を舟に乗せられるわけではありません。種によって繁殖の難易度も違いますし、資金にも限界がある。本当に種の保全を考えるなら、動物を世界中で交換して繁殖させるより、野生の動物や生息環境を守ることに時間や労力、お金を使った方がいい」と村田園長は語気を強める。

動物園における種の保全活動が始まった60年代後半、世界で環境破壊が進み、野生動物の絶滅危機が叫ばれた。動物園の“ノアの方舟”は、そうした危機的状況から動物たちを一時避難させるためのものだった。

「当時の専門家たちは向こう100年間という時間的基準を設け、飼育下で種の遺伝的多様性を保ちながら繁殖・保全するための計画を立てました。その背景には100年経てば人間が賢くなって、地球環境も良くなっているはずだという考えがあった。じゃあそれまでは動物園で一時的に保全して、将来野生に戻しましょうと。それから60年近く経ちましたが、現状はどうでしょうか?」

ゾウやトラ、オランウータンなど、動物園ではお馴染みの動物の多くが、止まらぬ密猟や生息地破壊によりあと数十年で絶滅するともいわれている。このままでは動物園の方舟は、多くの命を乗せたまま永遠に行き場を失ってしまう。

「方舟に乗っているのは、かわいくて華のある動物たちだけではありません。メダカやカエルなど、身近にいる生き物だって同じです。例えば神奈川県では絶滅間近のムカシツチガエルはお世辞にもきれいな姿ではないのですが、じゃあ絶滅していいかといったらそうじゃない。〈ズーラシア〉には珍しい動物がたくさんいますが、その姿に驚き、感動し、彼らの置かれた状況を知ることを通して、身近にいる動物と彼らの未来にも考えを巡らせてもらえたら」

世界的に保全が求められる稀少種の繁殖を行う傍ら、繁殖センターでは県内のムカシツチガエルの一部を譲り受けて繁殖。地元にオタマジャクシを放流する活動を続けている。

「方舟のモラトリアムはあと約40年。でも私は悲観していません。近年、来園者の中には種の保全活動について興味を持ち、SNSなどで積極的に発信してくださる方も多い。人間は今からでも必ず賢くなれる。動物園に来て、少しでも野生動物や彼らの置かれた状況、人間活動が引き起こしている環境問題に思いを寄せるきっかけを持っていただけたら。動物園から社会を変えていくというのが私たちの大きな役割であると同時に目標。そして希望なんです」

村田浩一(〈よこはま動物園ズーラシア〉園長)
誰よりも早く園に来て、動物たちの様子を見て回る村田浩一園長。顔を覚えているチンパンジーたちは姿が見えるとすぐに寄ってきて、ちょっかいを出してくる。