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岡村靖幸と振り返るTOWA TEIの35年。同世代の音楽家二人の初対談。その共通点と違いとは

今年還暦を記念し、アルバム『AH!!』を発表したTOWA TEI。今秋から配信予定の『スター・ウォーズ ビジョンズ3 四枚羽の詩』へ楽曲を提供するなど、活動の幅を広げている。今回は「テイさんの大ファン」を公言する岡村靖幸との初の対談が実現。テーブルにつくなり愛情溢れる質問が止まらない、岡村さんです。

photo: Kazufumi Shimoyashiki / styling: [Okamura] Yoshiyuki Shimazu / hair & make: [Okamura] Harumi Masuda, [TEI] Yuko Umezawa / text: Katsumi Watanabe

デビュー当時から気にかけ、15年後に念願の邂逅

岡村靖幸(以下、岡村):90年代からファンで、CDを聴き、DJをされているパーティにもうかがっていました。それから一時期は、同じ事務所(吉本興業)に所属していましたが、お会いする機会がなく、やっと挨拶できたのは、僕が坂本龍一さんと懇意にさせていただいてからなんですよね。

TOWA TEI(以下、テイ):高橋幸宏さんが主催されていた『ワールド・ハピネス』の会場だったかな。その後「ぶーしゃかループ」(2016年)を聴いたら、カッコよくて驚いたんですよ。

岡村:僕自身もDJをするようになって、渋谷〈Vision〉などでご一緒させていただいて。思い出深いのは、2023年に幸宏さんが永眠された後、テイさんからお誘いいただいたイベントです。

テイ:尾山台の〈SO TIRED〉で、公式なイベントではなく、友人知人が追悼の意味を込めて集まったんですよ。

岡村:「会える時に会おうよ」という名目で、すごく心に刺さりました。そういえば、会場にはジャングル・ブラザースのメンバーもいらしてましたね。

テイ:アフリカ・ベイビー・バムが来日していて、フリースタイルをやっていました。彼とはディー・ライトに参加する以前からの友人で。

岡村靖幸とTOWA TEI

90年代に台頭したサンプリングミュージック

岡村:実は、90年代にテイさんが所属されていたディー・ライトの来日公演へ行ったんですよ。アルバム『World Clique』(1990年)と「Groove Is In The Heart」を聴いた時、ものすごくショックを受けて。大量の音楽を散りばめてサンプル&コラージュし、ハウスミュージックを作られていて、その元ネタが、「こんなの選んでくるんだ!?」というような映画のサントラや、劇中のSEだったりして。聞いたことないような摩訶不思議な曲なんだけど、すごくかっこよかった。それが世界的な大ヒットになって、すごいことだと思いました。

テイ:当時のNYは、デ・ラ・ソウルなどの新しいヒップホップ、それからロンドンからはSOULⅡSOULみたいなグラウンドビートが出てきて、メジャーレーベルからクラブミュージックがリリースされ、流行りはじめていた頃でした。ディー・ライトは、また全然違う音楽性だけど、当時のタイミングでリリースすれば、「NYのどこへ行ってもディーライト一色になるんじゃないかな」という確信はありました。ただ、あそこまで世界的なポップチャートで売れるとは思わなかったから、その後ちょっと病みましたね。ワールドツアーのスケジュールが組まれた時も、本当はやりたくなかったんだけど、東京だけは仕方なく行った感じでしたね。

岡村:活動の拠点を日本へ移し、ファーストソロ『FUTURE LISTENING!』(1994年)を発表された後、西麻布〈Club Yellow〉でDJをされていたパーティにも、遊びに行きました。

岡村靖幸とTOWA TEI

テイ:僕は東京で美大を卒業した後、1987年からNYへ行っちゃったので、岡村ちゃんのデビューした時期の音楽をあまり知らないんですよ。

岡村:1986年デビューで、生演奏などのアレンジで制作してました。ただ、同時期に打ち込み機材やサンプラーが出てきたんです。自分でもやって、いろいろなサンプルソースをコラージュして、制作をする中で、自分では絶対入れないような音を紡いで、曲が作られていた『World Clique』を聴き、本当に驚いたんです。調べてみるとジャングル・ブラザースやア・トライブ・コールド・クエストの作品にも携われていたそうですね。

テイ:彼らとデ・ラ・ソウルによる集合体、ネイティヴ・タンとは仲がよかったんです。

岡村:「Groove Is In The Heart」には、ア・トライブ・コールド・クエストのQティップが参加していますよね。その後、テイさんのソロデビュー「TECHNOVA」(1994年)をサンプリングして、「Find A Way」(1998年)という曲も作っていて。今でも、数多くのミュージシャンがテイさんの曲をサンプリングしています。

テイ:不労所得。好きな4文字熟語で、座右の銘ともいえます。

岡村:(笑)。僕は近年のK-POPを聴いていても、プロデューサー主体の楽曲制作など、サウンドプロダクションに関しては、結構テイさんの影響が大きいと思うんですよね。

テイ:元々、韓国語は単語に破裂音が多く、ラップと相性がいいとは思っていたんです。教授が、MC Sniperを招き、ハングルのラップを取り入れた「undercooled」(2004年)を発表して。

岡村:坂本さんは何事も早かったですね。

テイ:いずれ、韓国から世界的なヒットが出るだろうと思っていましたよ。

岡村:テイさんは、ジャケットのビジュアルデザインはもちろん、プロモーションビデオも時代ごとにテイさんのテイストがすごく出ていて。ハウスミュージックは80年代から、クラブでプレイされることを目的として作られていたため、レコードにしてもジャケットがないものが多く、あまりデザイン性がなかった。そこにビジュアルを付けたのが、『World Clique』やシングルだったと思います。

テイ:大体ジャケットはなく、レコード盤面のラベルに曲とアーティスト名が記されているだけでしたね。

岡村:各曲のMVがYouTubeにアップされていますが、今見ても新鮮ですね。サイケデリックだったり、モンドだったり、その時にテイさんがハマっているものがわかります。

岡村靖幸とTOWA TEI

TOWA TEIが引き継ぐ、YMOのサニーサイド

テイ:摩訶不思議という言葉が出てきたけど、僕もそういう感覚が好きで、音楽を作っているところはありますね。

岡村:新作『AH!!』をはじめ、テイさんの作品を聴いた後には、YMOを最初聴いた時の不思議な気持ちを思い出すことが多くて。『増殖』のような、音楽はもちろん、声によるサウンドデザイン、それからジャケットなどの装丁など。おしゃれでヒップだけど、摩訶不思議なテイストもあって。YMOチルドレンはたくさんいますけど、テイさんが最も色濃く引き継がれているんじゃないかと思っています。

テイ:『AH!!』収録の「THE PROPHET」は、20世紀末に高橋幸宏さんに叩いてもらったドラムテイクのデータが見つかったので、再編集し、そのトラックに、細野晴臣さんにベースを弾いてもらった曲。細野さんが喜ぶように、がんばってエディットしました。

岡村:YMOの「Seoul Music」というファンクの曲を思い出しましたよ。

テイ:嬉しいですね。今の発言だけでも、24ポイントくらいのフォントで書いていただきたいです!

岡村:テイさんの音楽は、YMOの楽しい部分を受け継いでいると感じます。

テイ:自己分析ですが、NYでハウスやヒップホップの黎明期に出会い、DJを始めたことが大きいんじゃないかな。好きな音楽をかけて、ギャラがもらえるなんて最高だと思ったんですが、どんなにいいプレイをしても、お客さんが踊らなければ意味がない。そういう経験が、サービス精神を培ったんだと思う。まぁ、水っぽいといいますか。

岡村:ちなみに、YMOのレコードは、NYへ持っていかれたんですか?

テイ:実は渡米する際、すべて実家に置いていったんです。小学生でYMOと出会って夢中になりましたが、大学生の頃から狂ったようにジェイムス・ブラウン(以下、JB)やスライ・ストーン、Pファンクばかり聴くようになって。一度は、YMOとお別れしたんですよ。NYへ行った時も、朝からブラックミュージック専門の〈WBLS〉や〈KISS FM〉を聴き、新しいダンスミュージックの12インチ・シングルをチェックし続けて。ディー・ライトに参加した時、メンバーのDJ ディミトリが教授(坂本龍一)の『B-2ユニット』を持っていて。改めて聴いてみたら、やっぱりよかったんです。

岡村:「Groove Is In The Heart」のMVには、ブーツィ・コリンズも出演しているし、ディー・ライトはファンク・ミュージックとYMOが融合した感じですね。

岡村靖幸とTOWA TEI

奇想天外なアイディアと、想像しなかった提案

テイ:逆に岡村ちゃんはJBやプリンスからの影響も大きいと思うけど、YMOはいつ頃聴いていたの?

岡村:小学生の頃、YMOは社会現象でしたから、普通に聴いていました。プリンスといえば、僕よりテイさんの方が影響は大きいと思いますよ。「TASTE OF YOU」(2009年)から、最新作に収録された「GUM」など、度々ボーカリストのタプリック・スウィージーさんを招いていますよね。ファルセットボイスが素晴らしく、めちゃめちゃプリンス感があって嬉しいんですよ。

テイ:実はいまだに会ったことがないんですよ。ドイツ人のボーカリストなんだけど、メールで仮歌のデータを送ると、すぐにハーモニーもつけて送り返してくれるような。仕事の早い人ですね。

岡村:会ったことがないのは驚きですが、すごく信用できる人なんですね。

テイ:みなさんの身体性をお借りしています。共通点は多いけど、岡村ちゃんと僕の決定的な違いは、身体性だと思います。例えば、岡村靖幸という音楽家は、一人で作詞作曲や編曲、楽器の演奏はもちろん、歌って、踊ることもできる。僕の場合は、あくまでもタプリックの声をお借りして、プリンスのような曲を作っている。つまり、僕には身体性ががっぽり抜けているんです。だから、音色や編集にこだわりながら、最終的にテイ・トウワの音楽に着地できたら、リリースするという感じです。

岡村:制作過程は、まったく違いますね。

テイ:アーティストの素質も違うよね。僕個人としては、岡村ちゃんのインストアルバムとか聴いてみたいけど、やっぱり出さないでしょ?

岡村:考えたこともなかったな……。でも、ちょっとやってみたいですね。人が思いつかないようなアイディアやユーモアのセンスが、やはりテイさんの音楽の魅力につながっているように思います。

テイ:音楽に限らず、こんな時代だからこそユーモアは大事だと思います。

岡村靖幸とTOWA TEI
岡村/ジャケット151,800円、ロングシャツ96,800円、パンツ93,500円、ブーツ105,600円(以上ワイズフォーメン/ヨウジヤマモト プレスルーム☎︎03•5463•1500)

『AH!!』
TOWA TEIの通算13枚目のオリジナルアルバム。細野晴臣と高橋幸宏の時間を超えたコラボ曲をはじめ、ゲストもバラエティ豊か。ジャケットの肖像画は横尾忠則によるもの。アナログ盤も発売中。