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〈sio〉が目指す、スタッフの才能を生かす居場所作り

最高の料理を提供するために、優しいルールのあるレストラン。

Photo: Aya Kawachi / Text: Emi Fukushima

入社直後から店舗に

「空気を和やかに、人間関係を良好にというのは大前提。そのうえで、スタッフたちの将来を考えたい」。そう話すのは、代々木上原のフレンチレストラン・sioを中心に、5店舗、総勢36名のスタッフを率いるsio株式会社のオーナーシェフ・鳥羽周作さん。料理人の働き方を変えるべく業界の先頭に立ち、やさしい職場作りを考え、実践している。

例えば、若手の教育。「通常10年かかる修業期間を半分にしてあげたい」という鳥羽さんの下、トライ&エラーを繰り返せるよう、未経験の新人も入社早々店舗に立ち調理の一部を担当する。経験の浅いスタッフに任せることで、店の味に影響は出ないのだろうか。

代々木上原フレンチレストラン・sioの20代30代を中心とするスタッフ
20代30代を中心とするsioのスタッフたち。ある一定レベルまでは「質より量」との考え方から、若手のスタッフも積極的に厨房へ立つ。

鳥羽さんいわく、質を担保するためには「レシピではなく“イズム”を共有する」ことが大事。「肉じゃがを作るとしたら、僕はおいしい肉じゃがの特徴を説明します。お肉は甘く、ジャガイモはなめらかで、甘じょっぱい味だ、と。ゴールを共有すると、やるべきことが逆算できる。レシピの丸暗記と違って一度腹落ちすれば、手順を忘れる心配もありません」と鳥羽さん。その効果を物語るように、sio創業以来の連日満員記録は依然として保たれている。

また、スタッフたちに相応の対価を支払うことも、大切にしていることの一つ。修業時代、経済的に苦しんだ鳥羽シェフ自身の経験を教訓に、スタッフ全員に対して、一般的な飲食の水準より高い給与を支払う体制作りに励んでいる。

「料理の世界って、修業時代は薄給で当たり前という価値観があります。師事するシェフの教え方はやさしくても、生活が立ち行かなければ元も子もない。料理人の仕事の価値を高めるためには必要なことです」

一方で、安定した環境では競争原理が働かず、一人前に育たない可能性も。しかし、鳥羽シェフは料理の質やスタッフの成長、働きやすさが成立するように意識しているという。そして、スタッフの希望や特性によっては、新しい「ポスト」まで作り出してしまうこともある。

「地道な作業が得意な人もいれば、発想が面白い人もいる。料理をゴールに絞って脱落するのはもったいないので、個性に合った居場所を提供したいなと」

例えば、「仕掛け人」を名乗るのは、折田拓哉さん。料理人を志してsioの門を叩いたが、今は広報を中心にsioのブランディング業務に携わり、広告塔として活躍中。「挑戦の機会をもらえて、感謝しています。自分なりの居場所も見つかりました」と折田さん。

「やさしさは、想像力と愛情」。そう言い切る鳥羽シェフは続ける。

「全員が生き生きと働けなければ、最高の料理も提供できません。お客さんのためにも最適な環境を考え続けることが、僕の役割だと思います」

現場を育てるやさしいルール

1.未経験の新人も、入社後すぐに店舗へ。

2.料理は、理想の味を要素に分解し、言語化。

3.スタッフの素質に応じて、新たな「ポスト」を作る。

sioの鳥羽周作シェフ
「レモンは香りが強い方がいいよね」と鳥羽周作シェフ(左)。空いた時間を見つけてはスタッフとコミュニケーションをとり、味の価値観を共有。