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祖父江慎+コズフィッシュ、一番やさしいデザイン事務所

いいデザイン生み出すために、ブックデザイナー・祖父江慎さんが考える優しい働き方。

Photo: Aya Kawachi / Text: Izumi Karashima

コズフィッシュはどこで何をしていてもいい。アットホームすぎずちょっとドライなんです。

この会社にはタイムカードや出勤表というものが存在しない。

「いつ、誰が、何時間会社にいるかなんて、デザイナーにはまったく関係のないこと。ここにいるより、いい映画やいい展覧会を観た方がぜんぜん仕事につながるし。スタッフ全員がムダなく効率的に、問題も起こさずに会社の仕事だけをきちんと進める、なんてつまんないでしょ。もともと組織が大嫌い。嫌いなのに会社をやってるという矛盾があるんだけど(笑)」

デザイン事務所〈コズフィッシュ〉。「社長」は、ブックデザイナーの祖父江慎さん。行きがかり上会社を設立したのが1990年。現在、スタッフは4人。いままで「仕事に直結しない人を多く雇ってきた」そうで、「デザイン未経験」も多かったそう。バンドマン、編集者志望、映像志望、漫画家志望、元営業職などなど。共通点は「本が好き」そして「笑い声がハッピーな人」。

「やっぱり、考え方がバラバラなスタッフと一緒に仕事すると楽しいじゃん。即戦力って助かるけど、経験則に縛られがちだから、知らない人の方が熱心だったり面白いんです」

コズフィッシュには「ウソ禁止(秘密はOK)」のルールがある。

「昔、会社勤めをしていたときに、朝が苦手でいつも寝坊してて。“寝坊しました”って上司に言うと、“ちゃんと別の理由を作って言いなさい。社会とはそういうものだ”と。単なる寝坊なのに、もっともらしい理由をつけるのがイヤでイヤで。だからウソ禁止。遅れた理由を答えなくてもいいけど、答えるときはウソを言わないでねって。やっぱり、監視社会はイヤだから、知らないことは知らなくていい。ただ、何に興味があるのかは知りたい。デザインってバレるんです。書店に並んだとき、デザイナーがすごく盛り上がってる本と、言うこと聞いて作りましたって本と、放つオーラが全然違うから」

仕事は、祖父江さんとデザイナーの1対1で進行。AD(アートディレクション)は祖父江さんだが、スタッフの腕が上がれば祖父江さんはAD(アシスタントデザイナー)に。

「すると僕は拍手するだけ(笑)。僕の好きな方向に合わせる必要なんてなくて僕が思いつかない、前例のないものができてほしいんです」

「僕はアートディレクターでありアシスタントデザイナー」。スタッフに任せられるようになると見守って応援するのが祖父江さんスタイル。

ところで、事務所で働く「社員」はどう思っているのだろう。スタッフの脇田あすかさんは「デザイン業界で日本一やさしい職場では」と胸を張る。「かといって、アットホームすぎず、ドライなところもあって。とにかく、祖父江さんの人柄。楽しく話ができるので、スタッフも皆どんどん自分の意見を出していけます。ただ……」。

すると祖父江さんが笑った。「ただ、僕が駄洒落を言いすぎるのが面倒だよね(笑)」

現場を育てるやさしいルール

1.タイムカードなんて作らないよ!

2.ウソを言うのは禁止(秘密にするのはOK)。

3.前例がないことは、それを優遇します♥

祖父江慎さん(左)とスタッフの脇田あすかさん。取材日は『ミッフィー展』(〈PLAY! MUSEUM〉[東京都立川市]、2021年9月12日まで)の準備中。