愛し合っていた夫婦が辿り着く
悲しい別れの中にある、やさしさ
「結婚」とは実に不思議なものだ。「愛」という形のない感情と関係性を、制度のもとに明文化して縛り付ける。それが何らかの理由で壊れてしまった時に、そもそもの根底にあった「愛」はいったいどうなるのか?
本作は劇作家の夫・チャーリーと、俳優の妻・ニコールの仲睦まじい夫婦が、離婚に至るまでの顛末を描いた作品。離婚協議を始めた当初は、話し合いで円満に解決できると思っていた2人だが、一人息子の親権や居住地の問題をめぐって、弁護士を立て法廷で激しく争うことに。
作中では、2人がまだ愛し合っている様子が何度も強調して描かれ、「もし〜だったなら」という哀しい可能性があまた提示される。もし、夫がもっと妻の望みに耳を傾けていたなら、もし、妻がもっと夫や自分自身に対して正直でいたなら(家父長制やマチズモという大きな壁がそこには立ちはだかっていたのだが)。そのやさしくも切ない“If”は、2人の結婚を回復することはない。
物語が進むにつれ、2人は互いに憎しみ合うまでになる。しかし、感情を露わにし、怒鳴り合い、丸裸になってぶつかり合い、最終的に彼らは結婚の原点にあった場所へと立ち戻る。「自分たちはたしかに愛し合っていたのだ」と。
そして、2人はすべてが終わった後、新たな形で互いへの「愛」を取り戻すことになる。辛い別れの中にも、一筋の希望の光を見つけ出すことはできる。2人のように互いに「やさしさ」を持っていれば、きっと。
文・小田部仁