脚本家・坂元裕二が放つ
至極のセリフが教えてくれる
やさしさの善し悪し
『最高の離婚』『カルテット』など、独特なセリフ回しによる会話劇が魅力の坂元裕二脚本ドラマ。その登場人物たちはどこか変わっているが、心根は愛情深くやさしいキャラクターばかりだ。
『大豆田とわ子と三人の元夫』で松田龍平が演じた1番目の夫・田中八作もその一人。オーガニックホストとも揶揄される八作は、公式プロフィールでも「やさしい性格」と紹介されていた。
第1話で大豆田とわ子が八作に「やさしいって頭がいいってことでしょ。頭がいいっていうのは、やさしいっていうこと」と言っていたが、このフレーズがすごい。たしかにやさしさは頭を使う高度な技術だ。きっと相手に対する言葉選びや発言のタイミングなどを考慮して初めて、やさしさは生まれるのだろう。
しかし、やさしさは時に人を傷つけることも。石橋静河演じる早良からは「やさしさで人に壁つくる人怖い」「その人がやさしいのは、やさしくしておけば面倒くさくないからなんだよ」と痛いところを突かれてしまう八作。やさしさは残酷でもあることまで伝えてくるとは、本当に坂元脚本は抜け目がない。
今作は特に、人を一つの定義に当てはめることなく、偏った視点だけで切り取らない脚本の姿勢が貫かれている。大豆田とわ子も離婚歴3回の女社長という記号を背負っていたが、世間が思うその像とは真逆のチャーミングな人だった。私たちももっと人の多面性を信じるべきだろう。その想像力もやさしさに通じるはずだ。
文・綿貫大介