排除されゆく存在に向き合い、
いつかの誰かのいばしょを想う
理解や共感を“やさしさ”とするならば、アートは本来やさしくないものだ。現実では受け入れられていない不都合な価値観や存在に目を向けさせる、痛みを伴うものこそが、アートの“やさしさ”なのだと思う。
これは、作家の高嶺格さんが、近所に漂着した北朝鮮の木造船に着想を得た作品だ。海を思わすほの暗い空間で白い服の女性が詩を朗読する。天井から吊られたガラス瓶が上下に揺れ、朗読者が船で漂流する亡霊かのような感覚へと誘う。
「歓迎されざる者」は誰によって居場所を奪われたのか。ニュースで見聞きする難民は、自分とは無縁の存在なのか。すぐ隣にある排除に思いを寄せることから、やさしさは始まる。
談・田中みゆき