「ワールドクラス」を知っていますか?
国際的な大手酒造カンパニー、ディアジオが主催する世界最大級のバーテンダー競技大会。それが「ワールドクラス」だ。年1回の開催で、まず各国別に開かれる予選大会で代表1名を選出。その全員が一堂に集まり、世界大会が行われる。
最大の特徴は、これが単なるカクテルコンペではない、ということ。バーテンダーとして、さまざまな競技の中で、アイデアやクリエイティビティ、技術、さらにトラブルに対応するスキル、スピーチを含むプレゼン能力、さらには審査員チームに対するホスピタリティまで繰り返し、幾重にも求められる。
つまり、単発のカクテルがいかに良くてもそれだけでは決して勝てない。必然的にフロックもない。連続する競技を通してバーテンダーの総合力が多面的に試され、勝者が決まるという意味でも、別格の大会となっている。
2009年の第1回から数えて14年目となる世界大会は、2023年9月に開催された。集まったのは世界各国の代表54名。大会期間中には各種のチャレンジ(=テーマ別の競技)があり、都度採点と集計が行われていく。結果が及ばない選手はその場で脱落するサバイバル方式。“最後の一人”となるべく、国境も民族も超えたチャレンジが今年も始まった。
世界大会の開催都市は毎回変わる。今回は南米ブラジル・サンパウロがその舞台だ。大会前日には54カ国の代表1名ずつと、その関係者やサポートメンバーも含めた1000名以上が会場へ集結した。
コロナ禍による中断やリモート開催なども乗り越えて、いよいよ本格的なリスタートとなる大会でもある。華やかな空気の中で、大会の幕開けがアナウンスされた。
大会初日のチャレンジが始まった
大会1日目、選手全員が臨む最初のチャレンジは「MAKE IT A TEN」。プレミアムジンの「タンカレー ナンバーテン」を使って、6分間の制限時間中に、規定されたテーマに沿って2種類のカクテルを考案し、審査員へ提供するというもの。
2つ目のチャレンジは「ONE STEP BEYOND」と題して、ウイスキーの「ジョニーウォーカー ブラックラベル」を用いて、4つの状況に応じた4杯のカクテルを創作する。味や見た目はもちろん、試技中のテクニックや材料ロスの少なさなどまで細かく採点されていく。
バーテンダーたちのチャレンジは続く
大会3日目には、いよいよ12名の選手がファイナリストとして選ばれた。その中の一人に勝ち残ったのは、日本代表の野里史昭。大阪のバー『ISTA COFFEE ELEMENTS』オーナーとして参加した日本大会で優勝し、この世界大会へ挑戦。文字通り、地球の反対側で繰り広げられる完全アウェイの空気の中でも、ここまでスコアを重ねてしっかり勝ち残り、日本の存在感を見せる。
テーマも課題も異なる各種チャレンジが続く大会期間中、地元サンパウロのバーテンダーによるコラボイベントや、過去の大会で活躍したマスターたちによるセミナー、パネルディスカッションなども各所で開かれ、意見交換やアイデアの共有が幅広く行われていくのも「ワールドクラス」ならではの光景だ。国境や文化の違いを超えて、バーとカクテルの価値を高める、というスタンスは大会を通じて一貫している。
バーテンダーとしての技術。正確さ。課題への理解。アイデア。トラブルへの対応力や瞬発力。機転、そして度胸。さらには目の前のゲストへの細やかな心配り。連日の課題審査でそのどれもが問われる中、高いレベルで持ち合わせていることを証明したのは今回、カナダ代表のジェイコブ・マーティンだった。
遂に今年のワールドクラス世界No.1バーテンダーが決まった
優勝のアナウンスを受け、歓喜に包まれる彼を囲んで、過去の大会を彩った歴代チャンピオンたちが壇上へ一気に集結する。毎回おなじみ、「ワールドクラス」のフィナーレを象徴する瞬間だ。
過去最多となる54カ国の代表が競い合ったこの2023年大会も、一人のチャンピオンを選出して幕を閉じた。けれど、これは次のチャレンジの始まりでもある。新チャンピオンは“次の一人”を見出し、また応援すべく、ここから世界各都市を回って、セミナーや各国予選の監修、審査へと回っていく。
こうした継続の中で、バーとカクテルの文化を育てていくのも、この大会の目指すベクトルだ。カクテルに可能性がある限り、挑戦者も、新しいアイデアも生まれ続ける。「ワールドクラス」はその道程標でもあるのだ。