Into The Wilderness
レアな食用野生植物を探して世界中を旅するジョセフ・シムコックスさん。ジョセフさんと彼のチームによる探検は400回・100ヵ国以上に及び、これまで食べた植物の数は1万種を優に超える。
果実・葉・塊茎・寄生植物まで、あらゆる食用植物をとにかく食べて、食べて、食べまくっているのだ。120ヵ国に何千もの種苗業者やコレクターの顧客を持ち、新しい作物の開発を行う大手の農業関連会社のコンサルタントとしても活動している彼は、年間350日を旅先で過ごし、年間60〜80フライトをこなして飛び回っている。
2つのスーツケースに詰めた身の回りの品だけで暮らし、行く先々で入手した植物の本を詰めた箱を1個持ち歩くというのが、彼のライフスタイル。採取した植物や種子は、すべて顧客に託している。そのため、家は持たずに植物の本や論文などの資料を置いておくためのスペースを借りているのみ。今いるそのフィールドが彼の“我が家”なのだ。
年間350日を自生地で過ごす男が、世界中で食べまくった珍奇食用植物たち。
フォリスマ ソノラエは、いつかは実際に見て食べてみたいと強く願っていた植物のひとつだ。2012年4月のある日、カリフォルニア南部の辺鄙な場所にサンドフードが生えているという詳しい情報を得た。その時は、中央アメリカのある場所にいて、まったく異なる方角へ向かう旅の最中だったのだが、急遽予定を変更して、フォリスマ ソノラエを見つけ出す方に賭けてみることにした。
同僚でガールフレンドのイリーナ・ストエネスクに、これから車でカリフォルニアまで行くことにすると伝えると、「馬鹿かこの人は?」という顔で振り向いたが、すぐに私が本気であることを察して諦めの表情となった。それも当然だ。そこへは16時間以上ぶっ通しで運転しなければ着かないのだから。
そんな馬鹿げたドライブを経て目的地にたどり着き、そのまま休むこともなく探索を進めると、すでに日が傾いていたが、幸運なことに日没間際に最初の標本を見つけることができた。しかし、すぐにあたりは真っ暗になってしまったため、ひとまず近くの町まで運転して宿泊。疲れ果てたイリーナをホテルに残して、翌朝、写真を撮るために同じ場所へ戻った。
午前8時くらいだったか。昨日の見つけた個体をもう一度探して砂地をとぼとぼ歩きまわってみるがなかなか見つからない。夕方とは違って日中の凶悪な日差しの中、汗だくになってさまよっていると、突然、宇宙へ飛び立たんとするかのようにUFOのような物体が目に入った。
フォリスマ ソノラエを再び見つけ出したのだ。砂に埋まって鎮座しているこの姿は、ビザールプランツの極みといえる。大きめの標本をひとつ掘り上げ始めると、花茎がとても長く30㎝以上もあり直径は約5㎝。思いのほか重みがある。ずいぶんと太く肉厚だ。最も驚いたのは、その何とも奇妙な芳香。たとえるならペパロニソーセージ風。
友人の家へ持ち帰って観察し、早速実食してみると、ソーセージのような匂いはあるものの、加熱したニンジンのように甘くジューシーで、それでいてカリカリと食感もあり、かなりの美味!実際、かつてはネイティブの人々に食材として利用されていたことから「サンドフード」とも呼ばれている。
フォリスマ ソノラエはもっと研究して栽培化する価値は必ずあると思う。寄生植物なので栽培は決して簡単ではないが、私はやってみるつもりだ。
味で印象深かったのはリシアンテス モジニアナだ。この注目に値する失われたフルーツは、イリーナから教えてもらったものだ。古来アステカ族によって育てられていたのではないかと考えられていて、栽培植物としては残っていないと言われ“失われたフルーツ”と呼ばれていた。
メキシコ中央部で9月の終わりに結実するという情報を得たので、何か手がかりを知る人がいないか調査に出かけることにした。ひたすら集落から集落へと車で渡り歩き、手がかりを探す日々だ。いくつめの集落かわからなくなってしまった頃、ついにこの果物を知っている男性を見つけ出すと、彼はすぐにこの美しいフルーツをひょいと一握り持ってきて見せてくれた。
出会いは突然だった。エメラルドグリーンでイタリアのチェリニョーラ・オリーブを大きくしたような形。半分に切ると、キウイフルーツを連想させる果肉と種子のパターンが露わになった。トマトに近いがかなり独特の味で、説明し難い芳香とほのかな辛味と甘味が合わさり、まさに美味だった。
付近の村々では、死者の日のお供え物として伝統的にこの果実が使われていた。
【Travel Notes】
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ソノラ砂漠は乾燥した低地で年間降水量はわずか60㎜程度の地域がほとんど。夏期の日中温度は45℃を超える。柱サボテン、乾生植物、塊根植物、パキカウル、灌木などが生息する。