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全曲がけ必至の傑作コンセプト・アルバム。『What's Going On』マーヴィン・ゲイ。バラカンが選ぶ夏のレコード Vol.22

ピーター・バラカンが選ぶ32枚のレコードストーリー。「ピーター・バラカンがオーナーのリスニングバー〈cheers pb〉で夏にかけるレコードの話を聞きました」も読む

illustration: TAIZO / text: Kaz Yuzawa

『What's Going On』Marvin Gaye(1971年)

全曲がけ必至の
傑作コンセプト・アルバム。

この永遠の名盤は、今からちょうど50年前、1971年5月21日にリリースされました。
これは有名な話ですが、マーヴィンが「What's Going On」という曲を作って発表したいと言ったとき、モータウンのベリー・ゴーディ社長は出したくないと答え、それに対してマーヴィンは「ほかの曲を歌うつもりはない。この曲を歌えるまで待つ」と譲らなかった。

そこで会社が出した折衷案が、シングル盤を出して売れればお前の言うことを聞く、売れなければ会社の言うことを聞け、というもの。そんな条件付きで発売されたシングル盤は、1週間もしないうちに初回プレス10万枚を完売。アルバム『What's Going On』は、無事制作されたんです。

このアルバムが永遠の名盤たる所以はいくつもありますが、僕が言いたいのはまず、ソウル・ミュージック史上初のコンセプト・アルバムだということ。それまでほとんどシングル中心で聴いていたソウル・ファンに、アルバム単位で聴く面白さを気づかせたと言ってもいいくらい、大きな影響がありました。次に、収録曲すべてが社会問題をテーマにしている点。

ヴェトナム戦争をテーマにしたもの、スラム街の問題を歌ったもの、そして、今回この一曲で取り上げている「Mercy Mercy Me(The Ecology)」は地球環境問題を歌っています。これほど社会性を感じさせるソウルのアルバムは、それまで存在していませんでした。

もう一点は、このアルバムをマーヴィン自身がプロデュースしたこと。一度デトロイトでミックスしたものの、仕上がりに満足できなかったマーヴィンはLAのスタジオで全編、ミックスし直しました。モータウンでここまでの自由が与えられることは初めてでした。2001年にデトロイト・ミックスも発売されましたが、長年聴き慣れたLAのミックスに比べるとちょっと大味で、マーヴィンがやり直したかった気持ちがわかります。

音楽的な意味でも、ミュージシャンの自立という観点からも、その後のドニー・ハサウェイやカーティス・メイフィールドなどの新しいソウル・ミュージックを築いていく人たちへの影響も相当あった名盤です。

Marvin Gaye

side A-6:「Mercy Mercy Me (The Ecology)」

僕は当時20歳で、Ecologyという言葉はこの曲で知ったと思います。50年前にはEcologyなんて誰も言ってなかったし、少なくとも歌のタイトルに使われたのは初でしょう。ただ、夏の一曲なので穏やかな曲調のこれを選びましたが、店では全曲通しでかけますよ。