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天に祝福された裏声を持つ女性シンガー。『Phoebe Snow』フィービ・スノウ。バラカンが選ぶ夏のレコード Vol.21

ピーター・バラカンが選ぶ32枚のレコードストーリー。「ピーター・バラカンがオーナーのリスニングバー〈cheers pb〉で夏にかけるレコードの話を聞きました」も読む

illustration: TAIZO / text: Kaz Yuzawa

『Phoebe Snow』Phoebe Snow(1974年)

天に祝福された裏声を持つ
女性シンガー。

74年7月1日、初めて東京に降り立った僕は、その足で新しい仕事場である音楽出版社に向かいました。そして用意されたデスクに着くと、たまたまそのデスクの上に未開封のまま置かれていたのが、このレコードでした。僕が勤める音楽出版社が、発売元のアメリカのシェルター・レコードの版権を管理していた関係で送られてきたものでした。出社1日目でとりあえずやることもなかった僕は、その無名の新人のレコードを聴いてみることにしたんです。そして……恋に落ちました。

僕はそのブルージーでジャズっぽい歌声を聴いて、てっきりフィービ・スノウは黒人だと思っていました。ジャケットのイラストを見ても顔がよくわからなかったし、髪の毛はクルクルのアフロのように描かれていましたからね(実際、クルクルでしたが)。ですから、彼女がユダヤ系の白人と知ったときは、ちょっと驚きました。

彼女の歌声は、よく響く艶やかな低音と、繊細なソプラノの裏声の間を、何の違和感も感じさせずに行き来することができるんです。そして彼女のデビュー・アルバム『Phoebe Snow』では、この天に祝福された歌声を存分に味わうことができます。

これだけで、恋に落ちる理由には十分です。主にジャズ畑のミュージシャンたちによる非常に繊細な演奏を、エンジニアのフィル・ラモーンは美しい音で収録しています。この一枚だけでシェルター・レーベルを離れた彼女はその後大手のコロムビアで素晴らしい作品を出し続けますが、いまだにフィービとの出会いとなったこのアルバムには特別な感情を持っています。

彼女自身の作品のほかにもう一つ、1975年のポール・サイモンのアルバム『Still Crazy After All These Years』で、彼女がデュエットで参加した「Gone At Last」もぜひ聴いてみてほしい一曲です。シングル・カットもされたこの曲での彼女は、デビュー・アルバムではほとんど開けなかった引き出しを開けて、力強く迫力あるゴスペル風のヴォーカルを披露しています。こちらのかっこいいフィービ・スノウもとてもステキです。

Phoebe Snow

side A-3:「Poetry Man」

「San Francisco Bay Blues」や「Good Times」などほかにも素晴らしい曲が何曲もあって、正直、どれを選んでもよかったんですが、今回はビルボードでトップ5のヒットを記録した彼女自身の作詞作曲の「Poetry Man」を。効果的に入るサックスはズート・シムズが吹いています。