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時計の歴史と、それを作ってきた人たち

専門用語や仕組みを知らなくても、時計は使える。しかし知識が増えると、時計の世界はもっと面白くなる。そこでBRUTUS本誌で「BRUTUS WATCH ACADEMY」を連載中の髙木教雄氏を講師に迎え、その特別編を開講します。今回のテーマは「時計の歴史と、それを作ってきた人たち」

本記事は、BRUTUS「それでも欲しい時計、どれですか?」(2024年11月1日発売)から特別公開中。詳しくはこちら

illustration: Fukiko Tamura / text: Norio Takagi

13世紀に登場したとされる最初期の機械式時計は、歯車の軸に巻き付けた紐に錘(おもり)を付け、その落下によって動かす教会などの塔時計であった。これには簡易な脱進機が取り付けられていたが発明者は不明である。

そして1583年、ガリレオ・ガリレイが「同じ長さの振り子が揺れる周期は、一定」という、振り子の等時性を発見。人類は、短い周期を正確に測る術(すべ)を得た。ガリレオは、振り子時計のスケッチを残したが、製作に着手する前にこの世を去った。

世界初の振り子時計は1656年、オランダの科学者クリスティアン・ホイヘンスによって実現された。また彼は、金属の輪に細いゼンマイを取り付けたものを振り子代わりにした、今と同じ原理の時計を1675年に発明。これにより機械式時計ははるかに高精度になり、携帯できるまでに小型化する道筋が開かれた。

18世紀、時計の進化を牽引したのは、イギリスとフランスであった。イギリスでは出発地との時差で自船の経度を知るための航海用クロックを高精度化する研究が進み、さまざまな脱進機がジョージ・グラハム、ジョン・ハリソン、トーマス・マッジらによって考案されてきた。

またフランスでは、1枚の地板の上に構築したパーツをブリッジで固定するという、今ある機械式ムーブメントの基本構造をジャン=アントワーヌ・レピーヌが考案。ムーブメントを劇的に薄くすることに成功した。そして彼の弟子だったアブラアン−ルイ・ブレゲによって、今ある時計機構の多くが進化を遂げ、また新たに生み出されていくこととなる。

彼らのような天才と、名もなき時計師らによって19世紀には現在の時計機構の大半の基本的な仕組みが確立された。そして20世紀に入るとムーブメントの小型化が進み、懐中時計から腕時計の時代に移行する。

鉄道や自動車、飛行機の発明と戦争が、時計精度の向上やクロノグラフ機構の進化、GMT機構の発明などを促した。1969年には、セイコーが世界初のクォーツ式腕時計を発表。一気に機械式から置き換わり、スイス時計産業は冬の時代を迎える。これを称してクォーツショック。

しかし80年代から辣腕経営者や才能ある時計師、デザイナーが懐中時計の時代に合った複雑機構の再現や新たなスタイルを生み出し始めたことで、機械式時計が再興。今に至る、新たな隆盛期を迎えることとなった。

時計の進化を2世紀速めた天才

日本の時計産業の黎明期を支える

脱進機を革新したレジェンド

スイス時計産業の救世主

人呼んで“時計界のピカソ”

機械式時計再興に功績を残す

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