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時計を動かす心臓部、「ムーブメント」の仕組みを知っていますか?

専門用語や仕組みを知らなくても、時計は使える。しかし知識が増えると、時計の世界はもっと面白くなる。そこで本誌で「BRUTUS WATCH ACADEMY」を連載中の髙木教雄氏を講師に迎え、その特別編を開講します。

illustration: Hitoshi Kuroki / text: Norio Takagi

講師:髙木教雄(ライター)

動力源を持つ機械の大半は、まず動力を制御してから機能させる。対して時計の機械式ムーブメントは、動力源と制御機構とが、それぞれメカニズムの両端に位置する稀有な構造を持つ。動力源は、ゼンマイを収めた香箱⑨。

ゼンマイが巻き戻ることで得られる動力は、複数の歯車(輪列)で順に速度を変えて伝達され、最終的に振り子の役割を果たすテンプ(テン輪②+ヒゲゼンマイ①)を振動させる。と同時に、テンプの振動に準じてシーソー運動をするアンクル③が、輪列の終端にあるガンギ車④の回転を制御するため、結果的に香箱の回転速度も制御され、各歯車が担う針を正確に進める仕組み。

下のイラストは、最もシンプルな機械式ムーブメントの機構図。この場合、秒針は時針と分針から離れたスモールセコンドとなる。現在主流のセンターセコンド式では、歯車の数はさらに増えるが、基本的な仕組みは上図と同じで、その原理は17世紀からほぼ変わっていない。ゆえに修理がたやすく、100年先まで使えるのだ。

黒木仁史 イラスト

①伸縮を繰り返し振動を促す
振り子でいう紐の役割を果たすキーパーツ。弾性があり熱膨張しづらい合金製で、外側終端を挟む緩急針と呼ばれる機構を動かすことで振動速度が調整できる。近年は、磁気帯びしないシリコン製の採用例も多い。

②時をカウントする振動子
振り子でいう錘(おもり)。軸(天真)が備わるコマ状で、ガンギ車が回転してアンクルを弾き、その二股になった竿先が天真の石を打ち、振動が促される。同時に振動でアンクルの位置を戻し、ガンギ車の回転を制御する。

③調速機構と輪列機構の仲介
脱進機を構成するパーツの一つ。Tに似た形状で、横棒の両端に爪石(人工ルビー)が備わる。この爪石がガンギ車の回転を受けテンプに動力を伝え、テンプの振動で位置が戻ると別側の爪石がガンギ車を止める。

動力伝達と制御とを担う
輪列終端で脱進機を構成する特殊形状の歯車。連結するアンクルのシーソー運動によって、常に1歯分だけ進む・止まるを繰り返すことで、テンプの調速を回転運動に反映する。シリコン製脱進機も多用される。

⑤スモールセコンドを運針
ガンギ車と連結する歯車。大半が60秒周期であり、スモールセコンド針が、回転軸のダイヤル側に取り付けられる。さまざまな設計条件により、60秒周期から外れた場合は、秒針がない2針モデルとして使われる。

⑥回転を増速する小さな歯車
歯車の軸に取り付けた小径の歯車の総称。各歯車を上下に重ねるように輪列を構成できるため、ムーブメントをコンパクトにすることができる。また大きな歯車で小さなカナを回すことで順次、回転が増速される。

⑦回転方向を整える中間車
四番車のカナと噛み合い、その増速と回転方向の変換を役割とする。すべての機械部品は、各高さに合わせたくぼみを加工した地板と呼ばれるベース上で構築され、ブリッジやウケと呼ぶ金属盤を載せ固定する。

⑧動力をダイレクトに受ける
香箱と連結する歯車。これを中央に置き、分針を動かす。その回転軸の地板の裏側に突き出た部分に取り付けられた、筒状のカナ(筒カナ)と歯車(筒車)を香箱と同軸にある日の裏車が減速し、時針を動かす。

⑨ゼンマイを収めた一番車
ゼンマイが収まる動力源で、それ自体が歯車の役割をする。ゼンマイの中心部は香箱内部の軸(香箱真)に、外側終端は香箱の内縁に、それぞれ固定。ゼンマイが巻き戻る際に終端が内縁を押すことで、回転する。

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