Wear

Wear

着る

時計とスタイル:〈MOGI Folk Art〉のオーナー、テリー・エリスのケーススタディ

シャツの袖と自然に馴染むか、リングとのバランス感は絶妙か。あるいは、腕から外したときにどのように飾るのか。どの一本を選び、どう付き合うのか、そこに“スタイル”というものが生まれるのかもしれません。〈MOGI Folk Art〉オーナー・テリー・エリスが語る時計とスタイル論。

本記事は、BRUTUS「時計とスタイル。」(2025年11月4日発売)から特別公開中。詳しくはこちら

photo: Hiroshi Nakamura / text: Shintaro Kawabe

フォークアートも〈セイコー〉も流行に左右されないもの選びを貫く

セレクトショップ〈MOGI Folk Art〉のオーナー、テリー・エリスさんの自宅には、メキシコ・オアハカのウッドカービングやアフリカのマスクなど、世界中のフォークアートが調和するように並ぶ。そんなプリミティブなものたちと同じくらい生活に欠かせないのが腕時計。

「約40年前にパリのショップで出会った〈ロレックス〉の『エクスプローラーⅠ』をきっかけに、腕時計に興味を持ち始めました。その後〈スウォッチ〉や、〈ハミルトン〉がかつて手がけていたデジタルウォッチ『パルサー』などのニッチな時計も収集することで、お気に入りの一本を巻くことは習慣の一つに。今や、着け忘れて外出したら家に必ず取りに戻るほど必需品です」

登板回数の多い時計たちは李朝箪笥(だんす)の引き出しに収納する。そこには〈セイコー〉をメインとする15本の腕時計が潜んでいる。

「〈セイコー〉で初めて手にしたのは、1965年製の初代ダイバーズウォッチ。高級ブランドがこの手のものを作るとゴージャス感が満載ですが、この一本は控えめなデザインなので使いやすい。アドベンチャーモデル『プロスペックス ランドマスター スプリングドライブ』は、〈セイコー〉と登山家・三浦雄一郎がエヴェレストを登頂するために作った一本で、好きなモデルの一つ。登山中の引っ掛かりを防ぐためにベゼルを省き、リューズも12時の位置にあります。この珍しいデザインを手がけているのが、〈セイコー〉のユニークなところです」

エリスさんの〈セイコー〉への愛は底知れない。特に目がないと話すのが、デザイナーの田中太郎が手がけた60年代の〈グランドセイコー〉。

「〈セイコー〉は機械式時計の最高峰の代名詞であるスイス製を追い越すために挑戦し、いい時計を作り続けていることも魅力の一つ。その象徴と言えるのが、田中太郎さんがデザインする〈グランドセイコー〉。僕が愛用するのは68年に登場した名機『45GS』モデルの復刻版ですが、デザインなどの見た目は当時のまま。彼が手がける一本は、ケースや文字盤なども含めたフェイスが平面で美しく見やすい。しかも、光を反射する鏡面仕上げを行っているから、輝きもうっとりするほど綺麗です」

デザインが美しい時計を好むエリスさんは、民藝やアートピースも同じマインドで選んでいるようだ。

「もしバスキアがクロノグラフを手がけたらこうなりそう」とエリスさんが話す〈グランドセイコー〉の一本。

「フォークアートも、直感的に美しいと感じたものを買いますし、部屋のあの一角に置きたい、と閃(ひらめ)いて購入することもある。ジャンルや国籍にとらわれずに自分の感覚で選べば、そのものに対して愛着も湧くはず。それは時計選びにも共通すること。レアなものや価値がついているものをコレクションしても、所有するだけでは本末転倒。日々の道具として愛用し続けることが腕時計の醍醐味だと思うのです」

No.1042「時計とスタイル。」バナー