編集者、出版社、作家も。本に関わる人も本屋に
内沼
書店員のみならず、編集者など、本にまつわる仕事をされている方のお店も増えていますね。
和氣
カメラ雑誌の元編集者である小谷輝之さんは、今では梅屋敷にオープンした〈葉々社〉の店主ですね。小上がりにこたつがあって和やかな雰囲気のある大好きなお店です。
内沼
ほかにも出版社、取次、作家に至るまで、さまざまなバックグラウンドのある人が、書店をオープンしていますね。東小金井の〈RIGHT NOW BOOKSTAND〉は、文芸誌『USO うそ』などを刊行する出版社〈rn press〉がオープンした事務所併設の書店。小田急バスの乗降車場に隣接する〈hocco〉という新しい施設に入っています。名古屋の金山にできた〈TOUTEN BOOKSTORE〉は、大手取次に勤め、フリーマガジン『読点magazine、』を作っていた古賀詩穂子さんがオープンしました。クラウドファンディングで開業資金を集めたことも話題になりましたね。ノンフィクション作家の田崎健太さんが鳥取大学附属病院内でスタートした〈カニジルブックストア〉はノンフィクションはもちろん、医療やクオリティ・オブ・ライフをテーマに選書をしているそうです。また直木賞作家の今村翔吾さんが閉業直前に経営を引き継いだ大阪府箕面市の〈きのしたブックセンター〉も、気になっています。異なる立場から本の仕事に携わってきたからこそ出てくる、それぞれの書店の個性があるのだろうと思います。
和氣
一挙にすごい情報量(笑)。脱線しますが、どうやって書店の情報を知ることが多いんですか?
内沼
書店に関する情報を発信しているから、自然と集まってくるというのはあると思います。僕の本屋講座の受講生の方や、著書を読んでくださった方から連絡をいただいたり。とはいえ一番多いのはTwitterですね。開業準備中の書店のアカウントにフォローされてニューオープン情報を得ることも。
本屋でダウンジャケット?異業種参入が書店を豊かに
和氣
僕もよく拝見してます!(笑)話を戻すと、内沼さんもおっしゃる通り異業種出身の方のお店には、いい意味で本屋らしくないところもあって面白いと思います。業界の常識にとらわれず、自由な雰囲気が強いかなと。
例えば前職が不動産関係の加茂和弘さんが始めた横浜の〈本屋 象の旅〉は、とにかく窓が大きくて開放的。多くの書店は、本がヤケるのを気にして閉鎖的な造りにしがちですよね。かなり気持ちいい空間で何度も行きたくなる場所です。
また、オンラインを中心にウェブ制作等を手がける黒川成樹さんが尾山台で始めた〈WARP HOLE BOOKS〉は、この町ならではのお店。元はといえばデザイナーとして参加していた、この町のコミュニティ活動〈おやまちプロジェクト〉を機に本屋を開くことを考え始めてオープンまでこぎ着けたそうです。地域の学校の総合学習のためにフェアを開催するなど、町との関わりがとても深い。この黒川さんがウェブのデザインをされているという三軒茶屋の〈twililight(トワイライライト)〉も僕が大好きな書店の一つです。立ち上げたのは、音楽や本にまつわる企画を数々手がけてこられた〈ignition gallery〉の熊谷充紘さん。これまでの人のつながりから、出版やイベント、グッズ制作もされています。
内沼
東京で緊急事態宣言が出た直後に発売された、柴田元幸さん訳のバリー・ユアグロー『ボッティチェリ 疫病の時代の寓話』もその一つですね。〈B&B〉でも、販売しました。
和氣
異業種のお店の中でも、とりわけ衝撃的だったのは神奈川県大和市にできた〈冒険研究所書店〉でした。北極冒険家である荻田泰永さんの事務所兼ショップですが、“冒険”や“旅”に特化しているわけではなく、いわゆる町の本屋さん同様の幅広い品揃え。そのうえで、オリジナルのダウンジャケットを販売したり、若手の冒険家のためにギアを貸し出したりもしているんです。2022年末に、忘年会ならぬ“冒”年会というイベントに参加したのですが、アウトドア関連の企業の方から本好きまで、ほかではなかなか出会いにくい方々が集まり刺激的でした。
老舗書店にも動きあり。まだまだ進化は続く!
内沼
最後にリニューアルにも注目したいです。まずは長野市にある〈書肆 朝陽館(しょし ちょうようかん)〉。〈朝陽館荻原書店〉として明治元(1868)年に創業し約150年、6代にわたり続いた老舗書店が19年に閉店。その後2年かけて、婿養子である荻原英記さんがリニューアルし復活しました。カフェ営業や雑貨販売、読書会や展示などのイベントにも積極的です。そして新潟市の〈北書店〉。12年続けたお店を移転して、昨年末から再スタートしています。店主の佐藤雄一さんご自身の体調不良を機に、より坪数の小さな場所に移られたんです。佐藤さんとは何度か対談やイベントをしていて、遠くにいてもふと思い出す存在です。新しいお店にも早く行きたい。
和氣
長く続いているお店が、それぞれの形で新たなスタートを切ってもいるんですね。
内沼
学芸大学の〈SUNNY BOY BOOKS〉を立ち上げた高橋和也さんは、移住先の沖縄県浜比嘉島で〈本と商い ある日、〉を始めましたね。年始にお店に伺ったのですが、とても気持ちがいい場所でした。沖縄には“県産本”といって、沖縄でしか流通していない本もあるので、面白いですよ。
和氣
いいなあ、すごく行ってみたいです。同じいち書店主としても刺激になります。そうは言っても、2023年4月に店舗を祖師ヶ谷大蔵に移転するので、しばらくは大量の仕事に追われそうです(笑)。
内沼
頑張ってください!(笑)