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聴く

植物はどんな音がするのか。技術発展で聞こえてきた、植物が奏でる音楽

都市空間の中で聴くからこそ、何かを思い出させてくれる、植物たちが奏でる音楽。小沼純一さんが教えてくれた。

初出:BRUTUS No.844『はじまりの音楽』(2017年4月1日発売)

illustration: 木村図芸社 / text: Katsumi Watanabe

西洋楽器のピアノ、バイオリンといった弦楽器は木製。アジアでも、インドネシアのバリ島で使われるティンクリックは竹、ロテ島のササンドゥはオウギヤシの葉で作られます。シューベルトの「菩提樹」や、日本では大江健三郎の小説を基にした武満徹の「雨の樹」など、植物をメタファーにしたクラシックや現代音楽の作品も数多くあります。音楽と植物は、そもそも切り離せない関係にあるんです。

近年では、機材やテクノロジーの進化に伴い、ダイレクトに植物と音楽的にコミュニケーションをとり、それを表現にしようと考える音楽家も出てきました。その代表がジョン・ケージです。マイクの進化により、微細な音を増幅させ、収音することを可能に。

ケージは、サボテンの針を弾いたりこすったりして演奏し、音を増幅させ、収音しました。着想は「植物はどういう音がするのか」というところから来ていて、実現できたのはマイクなどのテクノロジーの発達に即しています。これは現代的な発想の、音でのコミュニケーションです。

『Branches』ジョン・ケージ
『Branches』John Cage
ケージによるサボテンの針を叩くなどして演奏する作品の楽譜。音符はなく、インストラクションのみの数式などが並ぶケージワールドが炸裂している。「英語の堪能な人に読んでもらいましたが、よく意味がわからないそうです(笑)」(小沼)

「植物の声を聞きたい」という音楽家や研究家たちは、コンピューターの普及で、さらに収音を進めました。植物研究家の銅金裕司さんは、植物に電極を付けて表面の電位変化を測定し、植物から発せられる聴覚的な信号を「プラントロン」と命名。藤枝守さんは、その電位変化をMIDI(電子音楽をデジタル転送するための世界共通規格)データに変換し、音楽にした。

「植物が奏でる音楽」をいかに具現化した事を解説した図
CD『エコロジカル・プラントロン』、インスタレーションで作曲を担当した藤枝守さんが「植物が奏でる音楽」をいかに具現化していったのかを解説。「蘭など、植物の葉や茎の部分に、電極を取り付けてInteractive Brainwave Visual Analyser(IBVA)という脳波測定アプリケーションによって植物の電位変化を解析。そのデータをMIDI信号に変換してパソコンに取り込み、MAXという音楽プログラムによって音響パターン化。そのパターンは純正調によるデジタル音源によりリアルタイムに植物が生育する展示空間にフィードバックされます」(小沼)

2人の共同作業は『エコロジカル・プラントロン』という作品になっています。蘭の電位変化を測定してみると、朝昼晩の時間帯で出てくる音が違うんだそうです(研究者の中にはあまり差がないと言う人もいますが……)。その音源データを音楽化する試みでした。

木の楽器や、植物をメタファーにした曲は、人間中心のイメージで作られてきました。しかし、『エコロジカル・プラントロン』はそうでなく、人間が植物の声に耳を傾けるという方向にクロースアップしています。植物がどう生きているかなんて、普通はあんまり考えない。

でも、『エコロジカル・プラントロン』に入っている水が流れる音を聴いていると、植物の動きを感じることができる。それぞれの音は複雑に動いているけど、どんなふうに動いているか、よく耳を澄まして聴けば、それは“音楽”と認識できます。

森林浴へ行き、木に体を寄せ、葉や枝が風に揺られこすれる音を聴いていると、なにか感じることがある。都市空間での生活では失われてしまいがちな感覚ですが、この作品を聴けば地球上の植物の存在をくっきりと感じられる。そういった意味で、疑似森林浴というと、少し軽いかな。

疑似森林浴ができる3枚