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どうしてそんな見た目に?専門家に聞く、珍奇植物のデザイン学

摩訶不思議な珍奇植物の形態。それは我々の目を楽しませてくれるために進化したものでは、もちろんない。これらは、過酷な環境を生き抜くための機能が隠された機能美だ。そこで、珍奇植物のデザインについて、植物の進化形態の専門家である長谷部光泰教授に話を聞いた。

illustration: Kei Hagiwara / text: Shogo Kawabata

Q:アグラオネマの迷彩模様、ドリミオプシスのまだら模様など奇妙な葉模様はなんのため?

A:虫などの食害を防ぐため

まだら模様は、虫に食べられにくい、という研究例があります。虫がもう食べた後に見えるのか、それとも、虫に気がつかれにくくしているのか、その両方があると思います。アグラオネマの迷彩もカムフラージュ、または虫食い擬態なのではないかと思われます。白くなっている部分は、そこに葉緑素がないわけですから、光合成の効率は当然悪くなる。その代わりとなるほかのメリットがあるはずなのです。

そして、こういった場合、虫や動物から見つかりづらくなっている、という理由が一番多いです。基本、目立つために葉模様を派手にする、ということはありません。花は虫を呼びますが、葉を派手にして虫を呼んでも、ほぼデメリットしかありませんから。

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Q:ジュエルオーキッドのキラキラと光る葉脈の役割は?

A:光を葉の中に取り込んでいるため

ジュエルオーキッドの光る葉脈は、葉の中に光を入れる窓のような働きをしている可能性もあると思います。葉脈部分が光を通すよう窓になっていて、それによって葉の表面だけでなく、内部の細胞でも光合成ができるようになり、効率が上がります。部屋の明かり取りの天窓のようなものですね。あと、虫食い擬態もあるかもしれない。明かり取りの窓は、多肉植物のハオルシアの窓も同じ原理ですね。

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Q:マツバランはなぜ根も葉もないの?

A:シダ植物が退化したから

水やミネラルを運ぶ維管束を持つ維管束植物、つまりコケ植物や藻類を除いたすべての植物は、まずイワヒバなどの小葉植物が分かれて、そのあと、シダ植物、そして、裸子植物と被子植物に分かれました。これらの植物の共通祖先は、約4億年前の茎だけからなるマツバランに似た植物でした。そのため、マツバランは太古の植物の生き残りともいわれていましたが、遺伝子解析により、今では、葉や根を持つシダ植物が退化したものだと考えられています。

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Q:コーデックスやパキカウルの太った幹や根はなんのため?

A:乾期を乗り越える水を溜めるため

コーデックスやパキカウルの太った幹や根は、貯水タンクのようなもの。雨期や乾期がある地域の植物にはこうした進化が見られます。乾期の葉を落として休眠している間、雨期でも晴天が続いた時に、溜めている水で生き永らえます。特に気候が過酷なところでは、根を太らすコーデックスが多い傾向があります。地上部の茎を太らせるパキカウルは、そこまで過酷ではない地域のものが多いです。地上部が残っていれば乾期でも光合成ができるので有利です。

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Q:蘭やアリストロキアの花にある、ひょろりと長い突起物は何?

A:蘭やアリストロキアの花にある、ひょろりと長い突起物は何?

蘭やアリストロキアの花についているひょろっと長い突起部は、ハエ、特にキノコバエなんかを呼ぶために進化した可能性が高いといわれています。ハエはこういう長い突起に引き寄せられる性質があるのです。いかにも止まりやすい形をしていますよね。新熱帯のフラグミペディウムと旧熱帯のパフィオペディラムではそれぞれ独自に、50cmにもなる花弁を持つ種が進化しています。

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Q:サボテンやアガベ、オニソテツなどの鋭いトゲはなんのため?

A:大型の動物からの食害を防ぐため

トゲはご想像の通り、基本は大型の動物からの食害を防ぐために進化したものです。しかし、サボテンの中には、トゲに朝露をまとわせ、株元に落として水を得るように進化したものもあります。トゲではありませんが、エリオスペルマムの葉の上につく突起も、朝露をまとわせて水分を得るために進化した可能性があると思います。乾燥地域では、朝露はとても貴重な水資源なのです。

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Q:ハエマンサスのようなペタッと地を這う葉はなんのため?

A:葉裏に朝露をためるため

ハエマンサスは葉を地表に這わせることで、葉の裏に朝露を溜めていると考えられます。ペタッとした形状は光合成効率も良くなりますし、日傘のような働きをして、地中の球根(鱗茎)部分の温度を上げない、涼しくさせるメリットもあるかと思います。また、動物の食害も減ります。日本でもシカの食害がひどい場所では地べたに葉がぴたっとついたオオバコばかりが生き残っている場所もあります。

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Q:ベゴニアやセラジネラなどの植物はなぜ青光りする葉を持つようになった?

A:青い光を光合成に使っていないため

青く輝く葉は、ほかの植物に光を遮られた暗い林床に生えているものが多いですよね。林の上の方にある植物は青い光を吸収しています。しかし、林床には、この青い光が届かないのです。そのため、林床の植物は、青以外の光を使って光合成をするように進化しました。青く見えるということは、青い光を吸収しないで反射してしまっているということなんです。

また、ベゴニアは、ほかにも暗い林床で光合成を行うための進化をしています。最近の研究では、ベゴニアの葉緑体の膜は、特有な重なり方をしており、光が入ると中で乱反射し、葉の内側に長い時間光をとどめておけるような構造になっていることがわかりました。半導体などにも使われているフォトニック結晶と呼ばれる構造に似ていますね。

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Q:ゲシリスやアルブカのような、クルクルと螺旋状に巻く葉はなんのため?

A:葉の剛性を上げるため

螺旋の葉は、細長い葉でもしっかりと立ち上がるため、巻くことで剛性を上げていると考えられます。ぺたんと倒れてしまうと光合成しづらく不利になるので、実は多くの植物の葉は螺旋になっています。例えば、水仙やチューリップ、イネ科の植物などもよく見ると葉がねじれています。こうした単子葉の仲間は葉が細くなるので、螺旋に巻くことで倒れづらくなっているのです。

特にゲシリスなどの自生地である南アフリカのフィールドは風が強いですから、巻きが顕著です。不思議なのは、こうした葉が巻く植物のほぼすべてが反時計回りに巻く、ということ。この理由はまだよくわかっていません。そして、コバンソウはなぜか時計回りに巻く。この理由もよくわかりません。

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