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生地やネック、タグはどう見分ける?古着屋店主による、ヴィンテージTシャツのひと口解剖学

近年、世界的に人気が集まり、価格の高騰が進むヴィンテージTシャツの世界。その面白さは珍しい絵柄を探すだけでは不十分。ディテールにも着目して初めて、時代の痕跡が見えてくる。

photo: Hiroki Oe / text: Ryota Mukai / special thanks: Yoshitaka Kase

教えてくれた人:山田憲吾(〈STYLE202〉店主)

多いときには年間150日ほどアメリカに滞在し、古着を買い付けてきた〈STYLE202〉の店主・山田憲吾さん。買い付け時は何千枚というTシャツを素早く選別するため、まずは見た目の印象と手触りで年代を選別する。

「形と生地に注目します。例えば1980年代以前は裾が短い作りのものが多いし、逆に90年代以降は裾が長くシルエットも大きいものが多い。生地の素材もさまざまで、80年代ならポリエステル混の生地が多いからペタッとしていたり、90年代になるとコットン100%の厚手の生地が増えるので白く毛羽立ちがあったり。2000年代以降は素材はそのままで生地が薄くなるので軽やかに映るんです」。

こうしてある程度、目星をつけてから、袖やネックの作り、タグに書かれた文字列などに目を凝らしていくのだという。注目すべきポイントの多くは山田さんが古着屋で働き始めた頃に先達から学んだこと。そのいくつかをごく簡単にレクチャーしてもらった。

まずはネックの作りで年代を把握する

Tシャツ
写真左端の赤いTシャツは80年代の一枚。縫い目が内側に入り込んでいるのが特徴で、「オーバーロック縫製」とも呼ばれる。中央のグリーンは2つ折りの襟でボディを挟み込んだ「バインダーネック」。どちらも90年代までよく見られる作り。右端は「オーバーロック縫製」かつ「平縫い」でダブルステッチに。ミシンの性能が上がったことで、シンプルだが頑丈な作りが成立した。2000年代以降の多くはこの形だ。

パキスタンメイド×アメリカのバンド=70年代

ジョン・レノンのプリントTシャツ
70年代にボディが作られた、ジョン・レノンのプリントT。貴重なデッドストックだ。首元はバインダーネックの仕様。
パキスタンメイドのTシャツタグ
もとより多種多様で、リプリント版も少なくないバンドT。信頼度の高い方法を一つ押さえるとしたら、ずばりアメリカのバンドTのうち、パキスタンメイドは70年代ものが多いということ。アメリカメイドに比べて編み目が緩い、といった特徴もあるが、正確な製作国はタグで確認を。Tシャツにはジョン・レノンの没年(1980年)が書かれているが、これは70年代末に作られたボディにプリントされたものと推測される。

タグは貴重な情報源。スケートTシャツで検証

袖と裾とコピーライトで当時モノか否かを推理する

Tシャツに限らず、古いものほど作りが簡素である、というのは一つの真理。このことが象徴的に表れているのが袖と裾のステッチだ。ごくざっくり捉えると、90年代以前はシングルステッチ、以後はダブルステッチが多い。当然、ダブルの方が耐久力がある。ミシンの技術の進歩によってこの仕様が当たり前になってきたのだ。

実際に見比べてみると、1983年製は袖も裾もシングル、97年ならどちらもダブル。その間、89年は袖はシングルで裾がダブルの混合型。過渡期を示す作りになっている。このステッチの年代と、プリントされたコピーライトの年が噛み合えば、当時モノの信憑性は高まるということ。

デッドストックのTシャツの取り扱いについて

作られた当時の未使用のままで手に入るデッドストックだが、当然新品とは状態が異なっている。何年も倉庫で眠っていたものだと、生地がホコリを吸って劣化していることも多い。店もチェックはしているが、極端なものだと布というよりも紙のようになっていて、洗濯機で洗うと散り散りに破れてしまうものもあるという。

染料の影響か、黒染めのデッドストックは破れや裂けに見舞われることが多いともいう。購入後まずは水に浸してホコリを抜き、手洗いする。干すときもハンガーに掛けず、平らに置くなど丁寧に。これさえやっておけば、以後は新品同様に着られる。

〈フルーツオブザルーム〉のTシャツ
アメリカのサーフショップの倉庫で発掘された〈フルーツオブザルーム〉のデッドストック。プリントはかつてアメリカで発表されたポルノ小説の表紙。各31,900円。