ソウル大学といえば、さしずめ韓国の東大である。ただし、違うのは傘下に美術大学があること。器作家、イ・インファ&キム・ドクホ夫妻の母校でもある。今や、若く優れた作家を次々輩出する、注目の学び舎となっている。その現場はどうなっているのか。大学と大学院で指導にあたるハン・ジョンヨン教授を訪ねる。
「15年ほど前までは現代アート中心のカリキュラムだったのですが、ドイツから陶芸の権威、ファン・カプスン先生を招聘(しょうへい)し、きちんと白磁を学べるよう設備を入れ替えたんです。私はちょうどほかの大学で陶芸を学び終えた頃で、ファン先生との出会いがあってここの大学院に入りました。白磁のカリキュラムが浸透してくると、作家デビューする学生も増えてきました」。かくいうハン教授も、入学して2年後には個展を開き、成功を収めている。
「白磁の作品を作るうえで大切なのはカオリンという鉱物です。楊口には素晴らしい素材があるものの、あまりに稀少。現在はニュージーランドのものを中心に活用しています。もちろん、地域特性はあるのですが、白は多彩ですからね。研究しても研究しても追いつきません」。
最近の学生の中には、白磁以外の土を好む人も出てきたという。そのため、教授は何年か前から、学生たちが応用できるよう、様々な土の研究も続けている。「実験はできるだけたくさん重ねます。その結果を皆で共有するのも、進歩のために大切なことだと思っています」
さて、大学院生たちの工房に案内してもらう。夏休み真っ盛りというのに、熱心に制作に励む学生ばかり。一人一人に驚くほどゆったりとした空間が与えられ、まるで作家集団の工房のようである。ある者は白磁を極めんとし、また、ある者は今のライフスタイルにぴったりの器に取り組み、また、ある者は陶磁器メーカーのデザイナーを志望し、資料制作に余念がない。
各自の棚には、それぞれの作品が並べられ、ちょっとしたギャラリー風でもある。教授は彼らの間を回りながら、個別に応対していく。この中に、すでに作家として立っている新人もいるそう。
ちょうど、教授の恩師・ファン先生も帰国していて、学生の釉薬の研究を見ながら、熱心に話し込んでいる。教えるというより、共に学ぶという姿勢である。みんな生き生きした表情。活気にあふれている。そこに、教授も参戦。楽しそうである。
研究室に戻った教授が、自ら作った三島手(みしまで)の茶碗で抹茶を点(た)ててくれる。ゆるりとした時間が流れる。
「美術館で見る伝統白磁は、名が残る作家の品ではありません。でも、その中に命を賭して作った、と感じるものがある。名もなき職人の作品だけれど、胸を打たれます。もちろん中には、いかにも雑なものもあったりして面白い。人間の仕事なんだなと思わせます。現代の若者たちは、受験勉強のせいもあって、目標に向かって直線で歩もうとする。でも、僕は、曲がりながら、寄り道しながら、余裕を持って、楽しみながら進んでほしいと願っています」