注目の新世代作家による、自由でモダンな「飾る器」
「飾る器」が面白い。飾る器とは、アートやオブジェのようにでて眺めることができ、同時に、花を生けたりモノを入れたりする実用の入れ物としても使えるもの。オブジェと器の、いわば境界線上にある存在だ。
食器の楽しさが料理を盛ることならば、飾る器の魅力は、その質感やフォルムを風景として日々目にし、楽しめること。例えば最近、焼き抜かれた土のゴツゴツした風合いや、木塊のざらりとした手触りなど、プリミティブな質感を主役にした「飾る器」が増えてきた。
作り手の中心は、小さい時から工業製品に囲まれて育った1980年代、90年代生まれ。彼らが眺めていたい存在として選ぶ質感が、きわめてプリミティブだということがなんだか素晴らしい。それらは山の岩肌や海辺の石、おおらかな大地などの自然を想起させ、いつもの生活に安心感をもたらす。
あるいは、割れたり穴が開いたりした原木をそのまま生かした器や、動物の皮革に漆を塗って補修しながら形作った箱。そういった、実は昔から用いられてきた素材の使い方を、新たな解釈で形にした「飾る器」も新鮮だ。自然界や人体の曲線を思わせる有機的なフォルムの花器にも人気が集まっている。
自然に寄り添い、自然の写しを愛してきた工芸のDNAを受け継ぎながら、より自由でモダンに進化した「飾る器」。食器という枠からハミ出しているからこそ生まれ得る豊かな造形に、器の未来や希望が見える。
オブジェと器の境界にある美しさがいつもの部屋に豊かな質感をもたらす
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白石陽一
●しらいし・よういち/1981年福岡県生まれ。岐阜県在住。
ヴィンテージのわびた風合いが好きで古着屋を志した後、焼き物の道へ進んだという注目の陶芸家。白い土の特性を生かした力強い質感が、大地をそのまま切り取ったような迫力を見せる。山から掘り出した原土に媒溶剤を混ぜて成形し、膨大な熱量をかけて焼成。不純物を含む原土から偶発的に生まれるヒビ割れやシワに引き込まれる。 -
松永圭太
●まつなが・けいた/1986年岐阜県生まれ。岐阜県在住。
大学で建築を学んだ陶芸作家。CADを使って作図した石膏型を用いている。写真は泥状にした土を型に流し込んで成型する鋳込みの作品で、左には転写シートも使用。量産のための技法を工芸に転用し、独特のゆらぎや文様を生み出すのが特徴だ。 -
松本治幸
●まつもと・はるゆき/1983年鳥取県生まれ。滋賀県在住。
薪窯でガッツリ焼成した焼き締めの白磁は、手に取ると「えっ?」と驚くほど軽く、卵の殻のように薄いことが指先でわかる。その繊細な造形を支えているのは、成形や鋳込み技術の高さ。成形後もギリギリの薄さまでカンナで削りをかけているそうだ。薪窯の中で燃えて付着した灰が作る、ざらりとした質感や石のような色彩が面白い。 -
森本 仁
●もりもと・ひとし/1976年岡山県生まれ。岡山県備前市で活動。
備前焼作家である父に学び、大学卒業後は美濃焼の豊場惺也に師事した陶芸家。自身が「白花(しらはな)」と呼ぶ白い備前焼は、備前の土を白く焼き締めたもの。その穏やかな佇まいに影響を与えているのは、茶をみ、草花を生け、料理も手がける日常だと話す。モダンでリズミカルな造形には、大学で学んだ彫刻のセンスも生かされている。 -
熊谷 峻
●くまがい・しゅん/1983年秋田県生まれ。秋田県在住。
土の中から発掘された古代ガラスのような風合いが美しい。熊谷が手がけるのは、熱したガラスを石膏型に流し込み、冷やし固めて成型する鋳造ガラス。ガラスの液体に、土や金属などの異素材を溶け込ませるのが特徴で、光に透かすとガラスの流れた跡が墨絵のように浮かび上がる。 -
呉 瑛姫
●ご・えいひ/1970年埼玉県生まれ。岐阜県多治見市で活動中。
山から採取した土を使って手びねりで成形する、プリミティブな土器の壺。粘土細工のように無垢な指の跡や、ところどころに残る貝殻の目跡が愛らしい。作品は壺から食器まで多岐にわたり、地面に掘った穴に埋めるようにして焼成する原始的な“野焼き”や、地域の陶芸家仲間たちと一緒にく薪窯によって制作。写真は野焼きしたもの。
朽ちたような木や、漆を重ねた皮革。時間の集積が生む美しさ
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五十嵐裕貴
●いがらし・ゆうき/1984年千葉県生まれ。山梨県在住。
触ったらホロッといってしまいそうな危ういカッコよさに、つい目が持っていかれる。主に桜の原木を仕入れ、自然にできた割れや腐食を生かしながら形作る。右は古いアルミで(別の材を合わせて補修すること)したもの。「器として使うこともできるくらいの作品」と木工家本人。 -
市川陽子
●いちかわ・ようこ/1985年大阪府生まれ。滋賀県を拠点に活動。
動物の皮革で器を作り、漆を塗って硬化させる。飛鳥時代から用いられてきた「漆皮(しっぴ)」という技法を基に、糸で縫う/穴や傷を繕うという行為を重ね、独自の入れ物へと昇華させる作家。した革のたわみや縮みも美しいが、本来は“液体”である漆の動きを閉じ込めたような手触りが印象に残る。
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内山 玲
●うちやま・れい/1984年鹿児島県生まれ。岐阜・飛騨高山で木工を学び、滋賀県で活動。
海に転がる丸い石を収拾するのが好きだと話す木工作家。クリの木を黒オイルで仕上げた器は、一見プロダクトのようにすっきりしているが、手に取ると小石を握った時のような不均一な丸みを備えていて愛着が湧く。トレーのように置いてもいいし、壁に掛けてもいい。
花を生けても生けなくても。有機的なフォルムの愛らしい花器
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𠮷田太郎
●よした・たろう/1994年石川県生まれ。石川県在住。
「撫でたくなる丸みのあるフォルム」が好きだと言う陶芸家。九谷焼窯元〈錦山窯〉に生まれて伝統技術を学ぶ一方で、個人作家としても釉薬の表情を生かした器作りに励んでいる。釉薬は約2,000種類を試作した中から数種類だけを採用。花を生けやすく、アートの要素も併せ持つ花器に定評あり。 -
坂本紬野子
●さかもと・ちのこ/1992年生まれ。ロンドン芸術大学で彫刻を学び、イギリスで活動。2021年から長崎県と滋賀県を拠点に制作。
手びねりによる陶器のヒントになっているのは、日本とイギリスでの日常生活にあるモノ。例えば市場の野菜や植物、博物館の民芸品のフォルムや質感だ。建築物のような質感を伴う美しい釉薬は、自ら調合したもの。 -
Yuri Iwamoto
●ゆり・いわもと/1993年埼玉県生まれ。富山県で活動。
今にも動きだしそうな愛嬌たっぷりのフォルムは、宙吹きガラスによる。フィンランドのガラス作家オイバ・トイッカの作品にも影響を受けたと話す彼女は、「溶けたガラスの意思をとどめるような、懐が深くおおらかな形」を目指す。