小中千昭、藤井秀剛ら映像制作者が告白する、本当に怖い映画
既存のジャンルホラーを逸脱した予測のつかなさが怖い
『ヘレディタリー/継承』
監督:アリ・アスター/米/2018年
祖母エレンを失ったグラハム家。それぞれ複雑な思いを抱える家族らの周囲では、不可解な出来事が頻発するように。
ゾンビ映画も巨大サメ映画もホラー映画であり、ホラー映画=怖い映画ではない。本当に怖い映画を2010年代以降に数えてみると、3本程度しかない。本作は北欧的家族の崩壊劇を基調に、心霊/オカルト/サイコなど、それぞれのジャンル的ルーティンから逸脱することに成功しており、観客を予測のつかない闇へと引きずり込む。(小中千昭)
異形を愛せてしまう主人公が怖い
『イレイザーヘッド』
監督:デヴィッド・リンチ/米/1976年
消しゴムのような髪形の印刷工ヘンリーは、恋人から肢体が不自由な奇妙な赤ん坊を産んだと告げられ結婚を決意する。
譬(たと)えるならカフカの『変身』のようでもある。日常に突然、異形が侵入してくる。「怖さ」の一つに安全地帯の崩壊がある。悪魔のいる部屋、怪物のすむ森、禁足地……そこに行かなければ大丈夫という不文律が破られるとき人は慄(おのの)く──はずだ。なのに主人公は異形(魚のような胎児)を受け入れ育て始める。理解できない──悪夢のような怖い映画。(清水 厚)
真実の強さが怖い
『エミリー・ローズ』
監督:スコット・デリクソン/米/2005年
実話を基にした作品。悪魔に取り憑かれ命を落とした女子大生。彼女に悪魔払いを施した神父は裁判にかけられる。
映画『エクソシスト』は、悪魔払い話の根底に“善対悪”“科学対宗教”などの戦いを盛り込んだ名作。本作はそんな同作を超えようという制作者の気概を感じる傑作で、ヒロインの演技が怖すぎる。ただ最高に怖いのは、邪悪なモノの存在を身近に感じさせること。日本人は、神様を信じても悪魔は信じない。日本人ピッタリの恐怖。(藤井秀剛)
人間の罪深さが怖い
『ペット・セメタリー』
監督:メアリー・ランバート/米/1989年
ペット霊園に程近い田舎町の新居で新生活を送る一家。ある日、車に轢(ひ)かれ死んだはずの飼い猫が、奇妙な姿で蘇る。
私が最も怖いホラー映画はスティーヴン・キング原作の本作です。私的にストーリーがとにかく怖いのですが、実はストーリーが怖いホラー映画は稀少で、特にこの作品はホラー描写だけでなく人間の愚かさや切なさ、そして怖さが集約されています。私は怪異や怪物よりも最後は人間の罪深さが一番怖く感じるのです。(永江二朗)