
イワムロカツヤ、まるよのかもめら漫画家が告白する、本当に怖い漫画
逃れられない人間の本性が怖い
『芋虫』
漫画:丸尾末広/原作:江戸川乱歩/2009年
須永中尉は戦争で四肢を失い、妻・時子の世話になっている。彼女は夫を苛(さいな)むことを楽しみにしていて……。
毒を知った年齢で私は虫が怖くなった。後に知識が増えて無毒の虫への怖さはなくなり、今では家に入った虫は殺さず逃がす。だが時々何の思考もなしに手で潰すことがある。『芋虫』は戦争で見ることと書くことしかできなくなった夫とその妻の話。人類が戦争を始める前から持っている恐ろしい本性を美しく描いている。原作にあったと勘違いするほど印象的なバナナの話も必見。
美しい情景と謎の奇病の対比が怖い
『蔵六の奇病』
著:日野日出志/1970年
頭が弱い農民・蔵六は幼少期から絵を描いてばかりいた。ある時全身に七色のできものができるが、これを絵の具にし始める。
このお話は、圧倒的な恐怖と美しさが混在しているところに不思議な怖さを感じます。点描で緻密に描かれた奇病の表現も最強なのですが、農村で起きる民衆の恐怖と残酷さ、そして餓鬼のように下腹部が異様に膨れ上がった蔵六の、透き通るような純粋な心とその体から噴き出る七色の鮮やかな膿(うみ)の対比が恐ろしくも美しいです!
抗(あらが)えない肉体の変容が怖い
『妖虫』
著:古賀新一/1975年
昆虫好きの青年・秀夫は、傷口から綿が出る奇病に侵される。その末に異形の怪物に変貌するが、これは彼に限ったことではなく……。
虫が苦手な人にとっては顔を背けたくなる表現が多々あるが、本質的な恐怖は主人公を中心とした人々が自分ではない異種へ変態してしまうところにある。登場人物の肉体と精神が蝕まれていくさまは、ジャンプスケアとは対極の真綿で首を絞めるような恐怖であり、もし自分がこうなってしまったら……という嫌な予感が拭い切れない。
悠久の時間を生きることを想像するのが怖い
「長い夢」
著:伊藤潤二/1997年
『伊藤潤二コレクション 90 長い夢』収録/一晩で数千年もの時間の夢を見る男・向田哲郎。担当医・黒田にはなす術(すべ)もないが……。
生命活動に差し込まれる奇怪、私はそこに恐怖感を覚えます。夢の中で過ごす時間が眠るたびに長くなることに悩む男。その夢の体験は現実にも干渉し始め、彼にとって昨日のことは100年前の出来事に感じてしまうのでした。では、永遠の夢を見た翌朝は……?限界のない侵食と孤独感が本当に恐ろしい作品です!