モクモクれん、マツダミノルら漫画家が告白する、本当に怖い漫画
崩れていくバランスが怖い
『Sink』
著:いがらしみきお/2002年
大学で教える山下公一は、首が長い人間や異様な数のたばこの吸い殻などを立て続けに目にし、周囲の異常に気がつくが……。
人はあらゆる方面でバランスを保っていたい。顔や人体、環境、家庭、自分自身。それらが一つ一つ生活の中でじっくりと確実に傾き崩れていくのを肌身で感じます。その連鎖は漫画の中だけにとどまらず、読者を侵食し、つい周辺を見回してしまうような、不安定感を残します。自分の平穏が崩壊することは、誰にとっても恐怖です。
愛への追求が怖い
「愛の墓標」
著:関よしみ/1995年
『マッドハウス』収録/最も互いをよく知る「ベストパートナーズ」を決めるゲームに参加する一同。最初の罰ゲームはサメのエサ!
過激なデスゲーム描写のある作品ですが、それ自体ではなく、人間の「愛」を追求するゲーム主催者の執念が怖いです。愛というのはポジティブな感情だけでなく、自分の都合や様々な矛盾を含むものだと思っています。必ずしも悪いことではないその側面を切り取ってさらされると、自分の信念をじわじわと崩されるような恐怖につながります。
現実世界に接続する、ふとした瞬間が怖い
『コワい話は≠くだけで。』
作:梨/画:景山五月/2022年
担当編集者のつてなどを辿り、怪談を集めコミック化する、漫画家・景山五月の物語。怪談はオムニバス。原作は怪談作家・梨。
近年のモキュメンタリーホラーブームの中で、漫画形式のものは初めて読んだのでとても斬新だと思った。ホラーは当たり前だが現実に迫るほど怖い。その「迫り方」で不意を突かれるとゾッとしてしまう。ラストも「そう来たか」という驚きがあり、高揚する恐怖感があった。やっぱり突如出てくる女性のフルネームは怖い。
「普通の善人」の豹変が怖い
『漂流教室』
著:楳図かずお/1972〜74年
授業中に大地震に見舞われた大和小学校。揺れが収まると、あたり一面の砂漠。そこは文明が崩壊した未来の世界だった。
若原先生が怖い。若原先生は物語の序盤で主人公たちを導く頼りがいのある大人なのだが、襲いかかる理不尽に耐え切れず、殺人鬼になってしまう。善人ですら簡単に悪人に変わってしまう様子が、当時小学生だった私に深いトラウマを残した。そして大人になった今、若原先生の気持ちがわかるようになったのも恐ろしい。