
今仁英輔、チビル松村ら怪談師が告白する、本当に怖い怪談
時代を超えて歌舞伎町の闇を徘徊し続ける不吉な存在が怖い
「歌舞伎町の赤い女」
著:吉田悠軌/2022年
『新宿怪談』収録/あるラブホテルに出没する赤い女の霊。その噂の正体を徹底捜査。諸説が浮かび上がる中、その真相を追う。
さまざまな怪談に登場し、吉田悠軌氏によると“火災の凶兆”“子殺しの母”などのイメージをまとう「赤い女」。土地やそこに住まう人々の抱える闇が生み出す幻なのか、はたまた現実か?と、不吉な想像を掻(か)き立てまくる存在が怖い。カブキ(歌舞伎町)における「赤い女」の目撃譚を、緻密な取材で掘り下げていく、吉田氏の執念も怖いです。
土地に仕掛けられた意図が怖い
「土地遣い」
著:煙鳥/2022年
『煙鳥怪奇録 忌集落』(共著:吉田悠軌、高田公太)収録/ある集落に実在する不幸が度重なる忌み地。因果を調べた衝撃の事実は。
僕は、この「土地遣い」のように、死んだはずの人が現れることより、死んでもなお現れる、思いの強さの方が怖い。ある土地について調査をする、怪談の作者・煙鳥は、調査の過程でその土地にまつわる、ある意図に気づく。そこで起こった事象よりも、恐ろしい人の思いが隠されていた。その思いに辿り着いた時、僕は本当の怖さを思い知りました。
救護した見知らぬ急病人の安否、その伝達方法が切なくて、怖い
「その日のつかれ」
著:小田イ輔/2016年
『実話コレクション邪怪談』収録/朝の通勤時、目の前で倒れた女性に心臓マッサージをし救急車に乗せた体験者。その帰り道に……。
「女の人死んでる!」と、子供に指を差されたことで(恐らく)救護した女性の霊が憑(つ)いていると判明し、人命救助の達成感が一瞬で消失するラストの恐ろしさ。相手の死も、憑依も、せめて知らずにいたかった。私自身、今の家に引っ越して以来、傷病者が倒れている場面によく通りかかる。そのたびにこの話を思い出し覚悟を問われる。
話は二転三転し、最後にわかった階段を上る時の音の正体が怖い
「トントンさん」
著:夜馬裕/2022年
『自宅怪談』収録/作者は怪談としても披露。親戚と一戸建てで同居を始めた一家。娘が階段を上がるたび、奇妙な音が聞こえてくる。
現実と⾮現実、ほんの数ミリの隙間を縫うような話。霊なのか、人怖なのか。どちらにも取れる夜馬裕さんの語り口、描写がとにかく不気味で、怖い。話自体の持つ気味の悪さ、⼈怖の持つ肝の冷える感覚、最後の後味の悪さ。人を怖がらせるすべてを兼ね備えている。