下駄華緒、牛抱せん夏ら怪談師が告白する、本当に怖い怪談
text&edit: Katsumi Watanabe
怪異や恐ろしい出来事を語りや文章で伝えていく、ホラーの基本形とも言える怪談。日々取材に明け暮れる怪談師たちが告白する、本当に怖い怪談とは。
本記事も掲載されている、BRUTUS「もっと怖いもの見たさ。」は、2024年8月1日発売です。
自宅にあるはずのない米の存在が怖い
「米」
語り手:ヤースー/YouTubeで視聴可能
格安物件に住む男が一粒の米を見つけたことから、悪夢を見ることに。
この怪談のポイントは「日常の歪み」。しかも、ちょっとした。米食を基本とする我々にとって、「米」はまさしく日常の象徴。しかし、その一粒が部屋の中にポツンと置かれていると……。その異様さが、驚くほど強調される。見慣れたものが、ほんの1ミクロン傾くことで、まったく違った風景になってしまう。僕はこの怪談を観て以来、米粒を見るたびに震えている。(竹内義和)
因縁因果が絡み合い、累(重)なり合い、登場人物が破滅していくのが怖い
『真景累ヶ淵』
著:三遊亭圓朝
江戸時代後期に創作された落語の怪談噺。江戸時代、旗本が金貸しを殺(あや)めたことから、両家が不幸に祟られることに。新字新仮名版などもある。
「このあと女房を持てば七代まで必ずや取り殺すからそう思へ」。豊志賀が死に際、恋人の新吉に残した書き置きである。怨霊は、延々と新吉につきまとい手を汚させる。まさか発端が、親の悪因縁だとは当人たちは知るよしもない。目には見えない縁によって破滅する圓朝の落語は、江戸時代に実際に起きた事件が基になっているのだから恐ろしい。(牛抱せん夏)
引っ越し先に残された、前に住んでいた人の忘れ物が怖い
「実話版 残置物」
著:中山昌亮/2017年/『後遺症ラジオ5巻』収録
日常系漫画に加え、作者や関係者らに起きた厄災や不可解な現象を記録した番外編【実話版】も収録。
処分することもできたはずなのに、なぜ家の中に放置したのか。放置しなければいけない理由が、そこにある気がして怖い。実は過去、私自身も、中山昌亮先生が発見した残置物の怪異を引き受けたことがあった。その日から、説明不可能の現象やケガ、事故、病気が続いた。実際に体験してしまったからこそ、余計に残置物が怖い。(語り部・匠平)
怪談師がつけた仮名や行動が、現実になっていくのが怖い
「たかゆき」
語り手:西浦和也/2019年/DVD『怪奇蒐集者(コレクター)西浦和也3』収録
キャンプ場で「たかゆき」という子供を探す声を聞く。その話を基に怪談を作ると……。
怪談師が怖い話を仕入れた時、事件・事故性の高いものは細部を伏せ、固有名を仮名にする。西浦さんも「たかゆき」制作時、人名や場所、行動を仮にして、怪談に仕立てたが、それが予言のように機能し、本当に被害者を出してしまう。霊によって西浦さんが仮名を言わされている可能性もあり、僕も怪談師として、他人事(ひとごと)とは思えない話。(下駄華緒)