人間と非人間、自然と人工の「間」にある新しい知性を考える
世界各国から建築家が集結し、様々な課題や未来へのアイデアが提示されるヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展。今回は建築家のカルロ・ラッティが総合ディレクターを務めテーマ「Intelligens. Natural. Artificial. Collective.」が提示された。日本館は建築家の青木淳さんがキュレーターを務め、「中立点(In-Between)」を出発点に参加アーティストと対話を進めた。完成した空間で青木さんと参加作家の藤倉麻子さんが語る、もの作りの未来とは。

青木淳
日本館は2層からなっていて、地上階は砂木(砂山太一&木内俊克)、上階は藤倉麻子+大村高広という各ユニットの作品が展開される。上階の床の「穴」が2つを結びつけています。
藤倉麻子
1年くらい前から、私たちと青木さんとの間で毎週のようにミーティングをし、「中立点」や、AI利用が進んでいった未来のもの作り等について対話をしてきたんですよね。
青木
そうですね。自然と人工、人間と非人間は対立するものではなく、それらの間で交わされる「対話」や「応答」といった振る舞いそのものが、もの作りの主体=新しい知性となり得るのではと。そうした前提を基に、今回は日本館の建物自体が対話をし、そこに人間も同等な存在として加わって日本館のあり方を話し合うという作品になった。シナリオの原案は私と家村珠代さんで書きましたが、最終的にまとめたのは藤倉さんと大村さんでした。
藤倉
このシナリオ自体が、展示全体のプロンプト(指示書)のように機能した感じ。「フィクション」と「アクチュアル」の間も意識していましたね。
青木
そう。実際に作品を体験してみて、最初に地上の作品と出会い、穴を通して上の映像が見える。その時点では地上階はアクチュアル、上階はフィクションと感じられる。でも上階で映像を体験してから下を見下ろすとむしろ下の方がフィクションと思えてくる。
藤倉
どっちかがどっちかじゃないという感じ、常に反転する関係ですよね。
青木
そう。フィクションとアクチュアルがメビウスの輪みたいに交代し続ける。それはうまく機能したかなと。
藤倉
2層の作品が妥協し合ったり融和したり、とは違う感覚があって。
青木
お互いが違うものとして独立したままそこにあるという感じなのかな。
藤倉
これが今の時点でのゴールなのかもしれませんが、同時に「中立点」ということかという印象を受けていて。
青木
つまり、到達点ではなく動的な定点っていう感じ。常にそういう平衡状態を目指して動き続けているような。そんな感じのことが「中立点」という言葉で受け止められたらいい。それが実現したのは「穴」の存在が大きい。
藤倉
メインのキャラクターになりましたね。穴が穴としての状態になるというのが実現できたような気がします。
青木
そうだね。日本館の展示は何度も見ているけど、みんな穴を利用しようとする。でも、今回の展示では穴が穴として存在することに意味があった。
藤倉
フィクショナルなリノベーション、建物に何かを加えるのではなく見方を変えることができた気がします。