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健康志向に肉体改善……。ヴィーガンを試したくなる?ドキュメンタリー映画

“意識高い”だけじゃない、あなたの思考をチェンジするドキュメンタリー映画3選。

text: Yumiko Sakuma

自他ともに認める肉ラバーだった自分が、肉を口にしなくなったのは、『健康って何?』を見てしまったからだ。

「おもしろいドキュメンタリー観てさ、もう一度観ようと思うんだけど一緒にどう?」と誘われ、ついうっかり承諾したが、冒頭5分も経たないうちに「パンドラの箱を開けてしまった」と思った。「引き返すなら今だ」と冷静な自分の声が聞こえたけれど、遅かった。

“環境保護運動界のマイケル・ムーア”とも言えるディレクター、キップ・アンデルセンによるドキュメンタリーは、環境問題や食物連鎖などの衝撃的な映像をこれでもかと使いながら、アメリカの食肉加工・乳・乳製品・水産物加工などの業界の欺瞞、医療関連団体との癒着を医師や研究者の証言を積み上げ、暴いていく。

映画の中で展開される研究者、患者たちの証言によれば、菜食によって糖尿病や心臓病、高血圧、癌といった現代の代表的な疾患のリスクは大幅に減る。水質や気候変動への影響など、環境負荷のことも考えて、この映画を見て以来、私は肉をほとんど口にしていない。

数カ月間、頑張って100%のヴィーガン生活に挑戦したあと、日本に帰国したときの不便さと、たまには魚を食したい気持ちになる自分を受け入れて、結局、私の食生活は、ある程度の柔軟性を許容する“フレキシタリアン”に落ち着いているが、それにしても、肉のない生活は、想像していたのとはまったく違う。それまでは「人間の体には動物性のタンパク質が必要なのだ」と言われて素直に信じていた。

初期には多少の喪失感もあったけれど、『ゲームチェンジャー』で、あのアーノルド・シュワルツェネッガーらが示唆するように、肉をやめたからといって取れなくなる栄養素はない。多くの菜食アスリートの証言同様に、体調はむしろ改善したし、疲労の回復も早く、必要な睡眠時間は短くなった。

肉をやめる、ということは、ジューシーでコクのある味を諦めることだと思っていたが、気がつけば、外食の世界では、肉や魚を使わずに野菜で味のレイヤーを重ねることで新しい表現を開拓するヴィーガン・シェフたちが腕を振るっていて、むしろ新たな楽しみを見つけたような感覚でいる。

いつの間に世界は変わっていたのだろう?ドキュメンタリー『バッド・ヴィーガン』の舞台となったマンハッタンの〈ピュア・フード&ワイン〉が登場しなければ、今、ニューヨークの菜食界はまったく違う様相になっていたに違いない。シェフのサルマ・メルンガイリスが一斉を風靡していた2000年代中盤、まだ肉を喜んでいた自分にはピンとこなかったが、野菜と穀物だけのその高級店が、ヴィーガニズムの価値を上げたのだ。

本作でつまびらかにされるのは、サルマが恋人に騙され、店の金に手をつけ、逃亡劇を繰り広げ、全米に報じられた信じ難い事件の顛末。逃亡先のホテルから彼が注文したピザのおかげで足がついて逮捕されたサルマが“バッド・ヴィーガン”との汚名を被る結果になったのは皮肉だが、ヴィーガン・シェフとしての彼女の腕に傷がついたわけではない。まだ、この先に復活劇があるのではないかと期待している。

『健康って何?』

健康にさせないのは誰?
食と健康の因果関係について考えさせる

アメリカの動物性食品業界と医療関連団体との間にどんな癒着が存在しているのか?売るためにどんな戦略があるのか?ヴィーガンのフィルムメーカー、キップ・アンデルセンが研究者や医療関連団体、患者たちへの取材、データで迫る。

『ゲームチェンジャー スポーツ栄養学の真実』

「肉食うやつこそ強い男!」のイメージを
覆すトップアスリートたちの証言

自らも菜食に転じたイギリスの元総合格闘家のジェームス・ウィルクスが案内人。人間が最高のパフォーマンスをするために、動物性タンパク質は本当に必要なのか?摂取をやめると人間の体はどう変わるのか?を医師、研究者、ウルトラトレイルランナーからNFLプレイヤー、最年長金メダリストまで、多くの菜食スターアスリートの証言を得ながら追求する。

『バッド・ヴィーガン:サルマ・メルンガイリスの栄光と転落』

21世紀のボニー&クライド!?
“ヴィーガンの女王
”の物語

菜食の概念を変え、世界的な注目を浴びた人気ヴィーガン・レストランのシェフ、サルマ・メルンガイリスが、キャリアの頂点とも言える成功の裏で、恋人に騙され、店を捨てて逃亡……。ニューヨークをあっと言わせた大事件を、初めて当人が振り返るNetflixオリジナル作品。