生誕90年と、自身のイラストレーション史
グラフィックデザイン、イラストレーション、舞台美術、絵本、アニメーション……と、70年以上にわたり活躍を続ける宇野亞喜良さん。その創作を900点超の作品で総覧する過去最大規模の個展『宇野亞喜良展 AQUIRAX UNO』が開催中だ。
「こんなにも年齢というものを意識して生きたのは初めて」と開幕までを振り返った宇野さんはこの3月、90歳を迎えた。「だいたい、自分でも過去を振り返って作品を眺めることなんてないですから、こうやって一堂にね、集めてもらえるのはとても嬉しいことです」
漠然と描き続けるということ
「具体的なモデルはいない」と宇野さんは言う。だからこそ、見る者の想像を掻(か)き立てるのかもしれない。頬に影を落とすほど長いまつげの少女は、いつもどこかアンニュイで、いつもお洒落な服を纏(まと)っている。その表情に、幻想の物語へ手を引いてくれるようなそのドレスの絵柄に、気づけば恋に落ちていた……。宇野さんが描く“少女”は、そのようにして人々を魅了し続けてきたのではないか。
1950年代のデビュー以来、イラストレーターという言葉が広まっていなかった日本のイラストレーション界を率いてきた宇野さん。
60〜70年代には、寺山修司主宰の劇団・天井棧敷の公演ポスターを手がけたことも有名だが、「台本が上がる前に、先にポスターを描くことも多かった」と話すように、寺山が逆に、イラストレーションから戯曲の鍵となるアイデアを得ることもあったのだそう。その後も宇野さんは現在に至るまで、数々のクリエイターと協働し創作を行ってきた。
「僕の仕事というのは、依頼を受けて、サイズや色の版数など制約がある中で描くのが日常だから、あっと驚かせようとかそんなことは考えていないんです。あまり苦労しないというか、自由に描くことが多いですが、絵を渡した編集者が面白がってくれたらいいなって、それくらいの気持ち。与えられたテーマをちゃんと描き込むことは大事にしてきましたけれど。それは昔からずっと変わってないですね」
時代が移ろう中で、いわく、「あまり批評的ではなく、漠然と世の中を眺めているんですよ。そして僕も、漠然と描き続けるということ」。
そうして『宇野亞喜良展 AQUIRAX UNO』には新作も並ぶ。圧倒的な作品の数々を目撃すると、昨今のイラストレーションとアートの境は?なんて問いが馬鹿らしくなるほど、宇野亞喜良がアーティストであることを思い知らされる。