本はあくまでも人と人をつなげるために、媒介するもの
JR中央線・三鷹駅の南口を出て、中央通りをまっすぐ、約10分間歩く。右手に現れるのが、9月にオープンしたばかりの書店〈UNITÉ〉(ユニテ)。驚くほど広々とした店内には新刊を中心に約4,000冊が並ぶ。YouTubeでの書籍紹介や、作家などを招いた店内イベントも活発に行われ、若者を中心に注目が高まっている店だ。
入り口付近には話題の文芸作品やエッセイ。さらに進むと、絵本作家のモーリス・センダック作品など、海外系児童書も目に飛び込んでくる。店奥や壁沿いの本棚には、千葉雅也や鶴見俊輔ら国内の哲学・思想書も充実している。平積みの本はあえて1冊ずつ距離が取られているため、それぞれが存在感を示す。木で統一された什器はゆったりとした空間づくりに一役買っていて、つい時間を忘れて棚を眺めてしまうはず。
「本屋を始めたって言うとすごい本好きに思われるけど、本はあくまでも人と人をつなげるために、媒介するもの」と不敵に笑うのが、弱冠27歳の店主・大森皓太さん。京都で過ごした大学時代に通い詰めた同名のブックカフェの想いを受け継ぎ、人文学系の選書に加え、同じく入り浸っていた京都の〈TRIBUTE COFFEE〉の珈琲も用意した。
書籍購入者が利用できるカフェスペースはまるで本棚の裏に隠れる秘密基地のよう。「お客さんには長居してほしいから」という言葉通り、買ったばかりの本をその場で読み始めて、気づけば数時間、読み切って帰っていくお客さんもいるほどだ。
本と珈琲を通し支え合っていく、駆け込み寺としての本屋
大森さんは、本屋の奥にいそうな厭世的で気難しい店主、といった雰囲気とは違う。法学部出身で、大学卒業後は会社員になった。20代の若さで〈UNITÉ〉をオープンしたのは、日々スピード感を増していく現代社会への違和感が理由だ。
「人間は本来、もっと支え合える生き物のはず。たとえば電車で高齢者を見かけたら、席を譲ってあげたいはずなのに、なぜか動けないときもある。それはコミュニケーションが足りていない社会がそうさせているんじゃないか。このお店では日ごろのしがらみを外れて、『原始的』になってもらえたら」。
大森さんは、心のどこかに生きづらさを抱える若者を受け入れて、本をおすすめするし、珈琲を淹れる。そんな駆け込み寺でありながら、一方的に支えて「あげる」わけではない。武田砂鉄、藤岡みなみといったゲストを招いたイベントでも、話し手・聞き手が区分されるような雰囲気は避け、集まった人たちの偶然の関わり合いが生まれるような柔らかい空気感が特徴だ。空間を共有する人同士が、本と珈琲を通して自然にコミュニケーションを取り、支え合っていく場所が、〈UNITÉ〉なのだという。
店を象徴する3冊として大森さんが選ぶのは、『読書からはじまる』(著:長田弘)、『常識のない喫茶店』(著:僕のマリ)、『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る: アフガンとの約束』(著:中村哲、澤地久枝)。大森さんの想いに応えるように、訪れた人たちが本を手に取っていき、少しずつ社会にゆとりが生まれていく。