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専門店にはない唯一無二の味。名物〆カレーと異業種餃子

カレーも餃子も、専門店とはまた違う、異なるアプローチだからこそ辿り着けるアイデアと味がある。イタリアン、小料理屋、オーガニックレストランなどの6皿をご紹介。

photo: Shin-ichi Yokoyama(konel /we are the farm /焼鳥やおや) / photo: Yoichiro Kikuchi(居酒屋やるき/松濤らんぷ/時喰み) / text: Ayako Takahashi(konel /we are the farm /時喰み) / text: Koji Okano(居酒屋やるき) / edit&text: Haruka Koishihara

中華を超える、異業種餃子

餃子は、今や専門店や中華料理店だけのものではない。イタリアン、フレンチビストロ、居酒屋、テキーラバー……。見回してみると、さまざまなジャンルのいい店に“ならでは”な工夫が凝らされた、個性の光る餃子がそこここに。

konel(渋谷)の水餃子

イタリアンの最高食材、
ポルチーニの香り高き水餃子。

辿り着くのが困難な隠れ家なのに、常に賑わっているのはおまかせコース7,700円〜の内容に毎回驚きと感動があるから。“こねる”に由来した店名通り、パスタもパンもシェフの菊池隆樹さんが生地をこねて作る自家製だ。

軸になるのはイタリアンだが和や中華のテイストを取り入れており、おでんと水餃子は人気の定番メニュー。その水餃子、具材は豚肉やポルチーニ、飴色に炒めたタマネギ、そして食感のアクセントに切り干し大根という自由さ。肉汁と香りとコクと食感が詰まった餡は、ショウガやニンニクを入れず味つけは塩とコショウのみながら存在感十分だ。タレはバルサミコポン酢とチリオイル、とこちらも独創的。注文は1人2個まで、なのが切ない!

1人前2個 253円。(寸)4cm、(皮)普、(ヒダ)無、(具)少

WE ARE THE FARM目黒店(目黒)のケール餃子

ケールのおいしさを広めた立役者が
作る、ケール愛がぎっしり!の餃子。

オーナーシェフの古森啓介さんは、ケールが日本ではまだ青汁にしか使われていなかった頃に、アメリカでその魅力に開眼。本来は冬が旬のケールを通年育てるために畑を耕し、今では東京ドーム5個分の自社農場で、ケールをはじめとした野菜を育てている。そして先頃、念願のケール餃子がついに店のメニューに加わった。

鮮度が命のケールは、朝採ったものをその日のうちに加工しなければならないうえ、熱を入れると色が飛びやすいため、美しい緑色の皮を実現するのには苦心したそう。餡も、つなぎ程度の豚肉と白菜、ネギ、ショウガ、ニンニクを混ぜたのみで、ほとんどケール。新鮮なケールを丸ごと食べているかのような、ヘルスコンシャスな餃子だ。

1人前14個 1,056円。(寸)7cm、(皮)薄、(ヒダ)4、(具)普

スパイス&ハーブ居酒屋やるき(新中野)の
スパイシー鶏皮ぎょうざ

居酒屋を愛するトニーさんが編み出したオリジナリティ満載の餃子。

居酒屋チェーン〈やるき茶屋〉で10年間活躍した後、自身の店を開いたインド人のシャヒン・ジャカリヤ・トニーさん。得意のスパイス使いを生かしたメニューは、ここでしか味わえないものばかり。特に「スパイシー鶏皮ぎょうざ」は、タンドリーチキンやきとりなどを作る際にはがした皮を、余すことなく使うために考案したアイデアメニューだ。

生の鶏皮に鶏挽き肉やキャベツ、タケノコ、シイタケを混ぜた餡を包み、蒸してから冷凍。これをオーダーごとに揚げて、熱々のところに特製スパイスをたっぷりまぶす。クミン、コリアンダー、チャットマサラ、マンゴーパウダーetc.の香りが複雑に絡み合う、なんとも魅惑的な酒のアテだ。

1人前3本 418円。(寸)10cm、(皮)普、(ヒダ)無、(具)普

カレー専門店じゃないけれど。あの店の名物〆カレー

カレーの専門店ではないけれど、旨いと評判のカレーがある店。研ぎ澄まされた技術で仕上げられた唯一無二の味は、看板メニューとして供されることも。食べずして帰れぬ味に、カレーの奥深さを感じずにはいられないのだ。

焼鳥やおや(池尻大橋)

カジュアル&活気アリ、な焼き鳥酒場で愛されるチキンカレー。

最近はおまかせコースのみの焼き鳥店も多い中、アラカルトで自由にオーダーできるうえ、ひとひねりした一品料理やアルコールも大充実と、食いしん坊&飲ん兵衛思いの〈焼鳥やおや〉。焼き鳥店の〆といえば丼類がメジャーだけれど、カレー好きな店主・遊津拓人さんは「スパイスの存在感を感じさせつつも辛すぎない、みんなが食べられるカレーを」とレシピを考案。

リンゴやヨーグルトを加えてアレンジしたペーストに鶏肉を漬ける、仕上げにはバターとゴマ油でテンパリングしたスパイスを加えるといった工夫を施す。まろやかな中にもトマトの酸味が爽やかなルーは、自然派ワインとよく合う。

時喰み(東銀座)

高級懐石料理店の潮流で普段
使いできる和食とワインの店。

銀座で、味もセンスも格別でリーズナブルな店を問えば名が挙がり、深夜ともなれば界隈の有名シェフが仕事終わりにこぞって訪れると聞けば、実力のほどを窺い知ることができる。この店は銀座屈指の日本料理店、〈銀座くどう〉〈徳うち山〉の系列店であるがゆえ、上質な食材が手に入るのだ。

ルーのだしにはエビの頭や殻を潰し丁寧に裏ごし。しかもお造り用に仕入れた伊勢エビやボタンエビのものだというからおいしくないわけがない。そこにタマネギ、トマト、ドライフェンネル、水を加え鍋底からレードルですくい上げるようにして全体をよく混ぜれば、フワリとしたムースのようなテクスチャーに。

エビの香りとコクが際立ち、濃厚なのにあっさりとしたルーに炊きたてご飯とビッグなエビフライの三位一体は、まさに〆にふさわしい贅沢カレーだ。

松濤 爛缶(神泉)

〆のご飯のつもりが、さらに一杯。
甘味と酸味が酒を呼ぶビンダルー。

左党から絶大な支持を得る渋谷の居酒屋〈高太郎〉出身で、2020年5月に独立開業した店主・柿木信浩さん。こちら〈松濤 爛缶〉には品書きがなく、料理はおまかせのみ。〆の定番がポークビンダルーだ。「赤ワインビネガーを使うことで生まれる、ほっと落ち着く甘酸っぱさ。飲んだ後には、これがいいんです。

またスパイスの風味に刺激され、“もう一杯!”の方もいます」。そんな時は日本酒なら芳醇な香りの古酒、ナチュラルワインならライトボディで旨味の濃いガメイを薦める柿木さん。唐辛子控えめのビンダルーが持つ甘味と酸味にも、ふわりと寄り添う飲み口なのだ。