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私の忘れたくない一行。俵万智、穂村弘、木下龍也、くどうれいんが選ぶ短歌

言葉のプロたちが、生きる力をもらったり、励まされたりしたことのある、忘れたくない大切な一行を選び、思いをしたためる。まずは歌人が選ぶ短歌から。読み手に多彩な情景を想起させる五七五七七の31音。SNSを通じ再び光が当たる豊かな表現世界を味わおう。


本記事も掲載されている、BRUTUS「一行だけで。」は、2024年5月15日発売です!

edit: Emi Fukushima

俵 万智

忘れたくない一行

たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私を さらつて行つてはくれぬか

河野裕子/作
『森のやうに獣のやうに』(沖積舎)収録

さらって行ってほしいと願いながら、決して受け身ではない。あなたには、その勇気があるのかと、覚悟と決断を迫る歌である。初句の字余りが生む切迫感、自分は落葉でいいという比喩、呼びかけで終わる結句。すべてがキマっている。歌を作り始めた頃に出会い、いつかこんな歌を詠んでみたいと強く憧れました。

忘れたくない、「自身」の一行

チューリップの花咲くような明るさであなた私を拉致せよ二月

『かぜのてのひら』(河出書房新社)収録

穂村 弘

忘れたくない一行

眠らむとしてひとすじの涙落つ きょうという無名交響曲


大滝和子/作
『銀河を産んだように』(砂子屋書房)収録

何事もない一日が過ぎて、何者でもない自分が、誰にも知られないまま、世界の片隅で眠ろうとする。その時、不意に「ひとすじの涙」がこぼれた。悲しいとか淋しいとかは、よくわからない。ただ、今日という日を生きた命の雫のような涙。「むめいこうきょうきょく」の中には「きょう」の響きが隠されている。

忘れたくない、「自身」の一行

超長期天気予報によれば我が一億年後の誕生日 曇り

『水中翼船炎上中』(講談社)収録

木下龍也

忘れたくない一行

もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい

岡野大嗣/作
『サイレンと犀』(書肆侃侃房)収録

「死にたい」と思う時、僕の脳内で自動的に再生され、その気持ちに続きを添えてくれる一首。確かに、ずっと死んでいたいわけではない。目の前の悲しみや抱えている苦しみさえなければ、やっぱり今と同じように生きていたいのだ。死に傾きかけた心を生に着地させてくれる。僕にとって一生のお守りになる短歌だ。

忘れたくない、「自身」の一行

生きてみることが答えになるような問いを抱えて生きていこうね


『オールアラウンドユー』(ナナロク社)収録

くどうれいん

忘れたくない一行

体内に三十二個の夏があり十七個目がときおり光る

小島なお/作
『展開図』(柊書房)収録

まさに十七歳のとき、『乱反射』という歌集を手にしてくやしくて泣いた。小島なおという十七歳の歌人に憧れて仕方がなかったのだ。わたしはその背中を追うように短歌をはじめた。その小島なおが三十二歳になり、十七個目の夏が時折光ると言ってくれたとき、憧れまみれの十七歳のわたしも報われたような気がした。

忘れたくない、「自身」の一行

噛めるひかり啜れるひかり飲めるひかり祈りのように盛岡冷麵

『水中で口笛』(左右社)収録
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