俵 万智
忘れたくない一行
さらって行ってほしいと願いながら、決して受け身ではない。あなたには、その勇気があるのかと、覚悟と決断を迫る歌である。初句の字余りが生む切迫感、自分は落葉でいいという比喩、呼びかけで終わる結句。すべてがキマっている。歌を作り始めた頃に出会い、いつかこんな歌を詠んでみたいと強く憧れました。
忘れたくない、「自身」の一行
穂村 弘
忘れたくない一行
何事もない一日が過ぎて、何者でもない自分が、誰にも知られないまま、世界の片隅で眠ろうとする。その時、不意に「ひとすじの涙」がこぼれた。悲しいとか淋しいとかは、よくわからない。ただ、今日という日を生きた命の雫のような涙。「むめいこうきょうきょく」の中には「きょう」の響きが隠されている。
忘れたくない、「自身」の一行
木下龍也
忘れたくない一行
「死にたい」と思う時、僕の脳内で自動的に再生され、その気持ちに続きを添えてくれる一首。確かに、ずっと死んでいたいわけではない。目の前の悲しみや抱えている苦しみさえなければ、やっぱり今と同じように生きていたいのだ。死に傾きかけた心を生に着地させてくれる。僕にとって一生のお守りになる短歌だ。
忘れたくない、「自身」の一行
くどうれいん
忘れたくない一行
まさに十七歳のとき、『乱反射』という歌集を手にしてくやしくて泣いた。小島なおという十七歳の歌人に憧れて仕方がなかったのだ。わたしはその背中を追うように短歌をはじめた。その小島なおが三十二歳になり、十七個目の夏が時折光ると言ってくれたとき、憧れまみれの十七歳のわたしも報われたような気がした。