カニエ・ナハ
忘れたくない一行
朝の到来が空へと回帰させる水、鳥、歌声──、それらを追って共に上昇する視線が、今一度世界を真新しくまなざし始める。裸の目に映り込む景の中、なぜか忘れられない一行が、投影する光がまぶしくて今、目を細めた。そこに在るのは、象形と音楽とが折り重なっている瓦屋根。
忘れたくない、「自身」の一行
菅原 敏
忘れたくない一行
多くの者が海へ出て二度と戻らなかった大航海時代のポルトガル。サウダーデとは愛したものの不在に抱く、懐かしさ、切なさ、そして諦め。過去に手を伸ばす感情。同時代に生きた萩原朔太郎の「波止場の煙」を思い出す。「歌も 酒も 戀も 月も もはやこの季節のものでない(中略)遠い港の波止場で/海草の焚けてる空のけむりでも眺めてゐよう」。
忘れたくない、「自身」の一行
黒川隆介
忘れたくない一行
詩人はアカデミックで陰気でイケてないというイメージを払拭してくれた。ブコウスキーをポケットに忍ばせて出歩いていた若い時分、この一節を読んだ日からその膨らみは田村隆一に変わった。
忘れたくない、「自身」の一行
高田怜央
忘れたくない一行
「言葉を失った瞬間が一番幸せ」と歌った宇多田ヒカルも、言葉を取り戻して「幸せ」を歌にした。日々の暮らしに降りそそぐ、言葉にならない感覚。それをどうしてもあなたに伝えたくて、結局のところ言葉を探すとき、世界はわたしを詩人にする。