サザンオールスターズのベーシストで、ウクレレ奏者としても活動する関口和之が、10年ぶりのソロアルバム『FREE−UKES』を発表。
『UKULELE CALENDAR』(1997年)などに収録の既発曲に加えて、2018年に結成した1993ウクレレオールスターズのメンバーとともにレコーディングした新曲が収録されている。中でも、ザ・ドリフターズの高木ブーが歌う「パパの手」はストリングス中心の伴奏に、優しいメロディが感動的だ。ウクレレの大先輩との出会い、ハワイアンの魅力、新作の制作について聞いた。
暑い日は続くけど、軽快なサウンドと名曲「パパの手」でちょっと涼しく
関口和之
サザンのデビュー直後、ドリフの『8時だョ!全員集合』に出演したことはありましたが、生放送のお忙しい最中だったので、ご挨拶もできず。最初にお話しさせていただいたのは、94年に渋谷CLUB QUATTROで開催されたザ・ウクレレ・オーケストラ・オブ・グレート・ブリテンの来日公演の時でしたね。
高木ブー
ああ、そうだったね。
関口
2日公演の日替わりゲストに牧伸二さんとブーさんが出演されていて、僕は観客として観に行ったんです。その時に楽屋でご挨拶して、名刺交換しました。翌日うちの留守番電話に「高木ブーで〜す」と、メッセージが入っていて。最初は、誰かのイタズラかと思いました(笑)。
高木
当時、テレビでウクレレを弾く人なんて、本当に少なかったんだよ。
関口
ウクレレ冬の時代と呼んでいますけど(笑)。後日お会いした時に「ウクレレ・オーケストラみたいなグループをやりたいね」と話したんですよね。
高木
明日にでもやろうという勢いだったけど、誰もやっていなかった。ホント、イヤになっちゃったね。
関口
2000年代前後にウクレレがブームになるんだけど、90年代半ばだとまだ時期尚早という感じでしたね。僕は個人でウクレレ普及活動を続け、ブーさんと一緒にライブをやったりして。気がついたら、家族ぐるみのお付き合いをさせていただくようになりました。
高木
長い付き合いになりましたね。
関口
2009年からホノルルでイベント『ウクレレピクニック・イン・ハワイ』を主催していて、10周年を記念して1933ウクレレオールスターズを結成。ハワイで結成発表とか、嵐みたいでいいでしょ(笑)。グループの“象徴”としてブーさんにも加入していただきました。
高木
ドリフの仕事でも行っていたけど、個人的にもハワイとその音楽が大好きで、何度も行っていたんです。
関口
以前、ホノルルのハロウィンパレードに雷様の格好で参加したんでしょ?
高木
そうですよ。
関口
現地の人たちは“本物⁉”とか、ちょっとした騒ぎになってましたよ(笑)。
ウクレレとの出会いと歴史
高木
僕は巣鴨で生まれ、戦争で焼け出され、千葉へ引っ越した。小さい頃から、うちには蓄音器があって、ジャズのレコードを聴いていてさ。音楽に興味があることを知った兄が、ある時にウクレレをくれたんだよ。バッキー白片さんなど、日本に入ってきたハワイの音楽のレコードを聴き、どうやって弾いているのか研究してね。コード譜があれば、誰だって演奏できるから、友達と集まって演奏して。ギターやベースは一番上の弦が低いんだけど、ウクレレは一番上が高い音。ハイGという独特なチューニングで。だから、軽やかな音になるんだろうな。
関口
ブーさんのストロークは、何度聴いても素晴らしい。真似したくても、なかなかできないんですよ。
高木
とにかくシンプルに弾けばいいの。ギターじゃないんだから、複雑に演奏しなくていいんだよ。昔のハワイアンのメロディはスチールギターが主旋律を弾き、ウクレレはあくまでも伴奏楽器。僕の奏法はピッキングソロといって、リズムのキープが大事。だから、ウクレレ・オーケストラのアンサンブルを聴き、「みんなで弾いてもいいんだな」と思ったね。
関口
ブーさんが聴いていた頃のハワイアンは、モダンで、とにかくメロディが素晴らしいですよね。僕が聴き始めたのは、もともとのルーツミュージックや文化を見直そうという、70年代のハワイアンルネッサンスが起こった時期で。今も人気のあるオープンチューニングのスラックキーギターの音色が好きになって。
高木
チューニングを変えて弾くことね。
関口
しかし、ウクレレという楽器に出会って変わりました。やっぱり楽しい。音楽への導入に、すごく向いていると思うんですよね。シンプルで、音楽の勉強をしていなくても、簡単にコードが出るし。すごく音楽が身近に感じられる楽器。そういうところも魅力の一つですね。
関口の指導は厳しいな(笑)
関口
今回ブーさんに歌ってもらった「パパの手」は、新しくバンドとしてデビューするからには、新しい曲があった方がいいと思って作ったんです。曲を考えている時、ブーさんと娘さんのかおるさんの、仲睦まじい親子関係が思い浮かんで。かおるさんは会社を辞めて、今はマネージャーとして一緒に仕事していて。
高木
娘が子供の頃は仕事ばかりだったけど、今は娘夫婦、孫と一緒に住んでいて。自分としてはこの歌の世界観は孫を可愛がる感情に近いかな。小さい頃はよく子守をしていて。娘が子供の頃にもやってあげたかったなと思いましたよ。
関口
娘さんからは、子供の頃はよく仕事場へ連れていってもらったと聞きましたよ。いいお父さんだったんですね。
高木
もっとやってあげたかった。最初にライブで演奏した「パパの手」は、ウクレレだけのかわいいアレンジだったけど、レコーディングではストリングス。いつかオーケストラをバックに歌ってみたいと思っていて、その夢が叶っちゃった。しかし、歌唱指導は厳しかったな。
関口
ウクレレファンはもちろん、より多くの人へ聴いてもらいたいと思い、アレンジを変えたんですよ。
高木
ウクレレは口笛を吹くみたいに気軽に演奏できるけど、ライブとなると話は別だな。私服からステージ用のタキシードに着替えなくちゃいけない。
関口
ファンとしては、両方とも観たいですけどね(笑)。
関口和之が選ぶ、
この夏に聴きたいハワイアンのレコード
『Hawaii Calls』V.A.
「島の歌(ナ・レイ・オ・ハワイ)」などのスタンダードを、ウェブリー・エドワーズがまとめたコンピレーション。「短波放送の番組でオンエアされた楽曲をまとめたシリーズです」
『Hawaiian Slack Key Guitar In The Real Old Style』Keola Beamer
1972年にスラックキーギターの名手が発表したデビュー作。「音色の気持ち良さ、ハワイ自体の優しさが詰まっている。これを聴いてスラックキーをやってみようと思いました」
『To You Sweetheart, Aloha』Andy Williams
1959年にアメリカ本土のシンガーが発表したハワイアン集。「ブーさん世代の人が魅了された美しいメロディを、ストリングスとボーカルでじっくり聴かせてくれる作品」
『Hot Like Lava』Don Tiki
1990年代から活動するバンドの曲を、新進気鋭の〈Aloha Got Soul〉が編集。「マーティン・デニーが代表する、いわゆるエキゾミュージックのバンド。3Dのジャケも最高!」
『The Songs of C&K』V.A.
セシリオ&カポノのヘンリー・カポノが、マイク・ラブや新世代のミュージシャンを迎えて、セルフカバー。「よく知られている名曲を、新しいメンバーで再演しています」
『Blue Skies』Tresa Bright
〈Aloha Got Soul〉から発表されたシンガー兼ウクレレ奏者の作品。「いわゆるジャズスタンダードを演奏していますが、声が大好きで。いまだにレコードを買っちゃいますね」