デルタ、C43、エコノラインetc. 「ワクワク」を追い求め、集めて、愛でる至福のカーライフ

人はなぜモノを集めるのか。そして、数ある選択肢の中からどうして“それ”を好きになり、選ぶのか。15台のクルマを乗り継ぎ、さらに新たな一台を手がけるコレクター気質の内田宙司さんを訪ねて知る、クルマの愛し方。

photo: Yoichi Nagano / text: Taichi Abe

クルマにフィギュア、たくさんのモノと愛情が集まる邸宅へ

相模湾を望む小高い丘の上に、整形外科医である内田宙司さんの“城”がある。妻と娘の3人で暮らすその場所を訪ねると、出迎えてくれた彼の後ろには4台の個性的なクルマが並んでいた。それぞれの年式は違えども、いずれも等しくピカピカに磨き込まれたクルマばかり。各車両に注がれる、内田さんの愛情の強さが一目で見て取れる。

整形外科医・内田宙司の自宅 外観
「もう手放せない」というゴルフ1に家族で乗り込む。娘の一宇ちゃん(中央)は、静かで乗り心地が快適な黒のメルセデスが一番好き。

「天気の良い休みの日には大体自分で洗車するようにしています。磨き上げているうちに自分の気持ちや考えもまとまる。まさに“ととのう”という感じかな」と語る彼がまず目をやったのは白いランチア・デルタ。2リッターターボエンジンを積んだ「HFインテグラーレ・エヴォルツィオーネⅡ」。

「もともとは“ジアッラ”と呼ばれるモデルだったんですが、ラリーカーを製作するプロショップでフルレストアしてもらいました。グループNと呼ばれるカテゴリーのベース車両くらいのスペックに仕上がっています。今持っている4台の中で一番付き合いの長いこのクルマを、僕は“長男”と呼んでいます(笑)」

その横には、ランチア・デルタと同様に、工業デザイン界の巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロがデザインを手がけたフォルクスワーゲン・ゴルフ1のカブリオレが並ぶ。

「友人がクルマを買うというのでついていったら出会っちゃって、彼より先に契約のハンコを捺した一台。前のオーナーが仕上げたオーバーフェンダーも美しくて、一目惚れ。自宅やクリニックの周辺を僕が一人でふらふらする時は、このゴルフに乗ることが多いですね」

一方で、妻の和香子(わかこ)さんの足となることが多いメルセデスAMGのC43、とにかく荷物を運ぶために選んだフォード・エコノラインもガレージには収められていた。4台それぞれの色濃いバックストーリーと、ランチア・デルタの力強いエンジン音を聞いたところで内田さんの案内で家の中へ。そこでさらに驚いた。

SW(スター・ウォーズ)グッズに通じるクルマを好きになる理由

広い窓に沿って並ぶストームトルーパー、天井からぶら下がるミレニアム・ファルコン、等身大のC-3PO……圧倒的な物量とクオリティの高さで、内田さんのスター・ウォーズグッズが部屋の奥へと誘うのだ。同作品のアイテムに交じって、NIKEのスニーカーやカラフルなミニカーなどがスペースいっぱいに並ぶ。

整形外科医・内田宙司の自宅 コレクション部屋
内田さんのコレクション部屋。C-3POとR2-D2は、発売された年代違いでライフサイズを2セット所有。「造形師で佇まいも違うので(笑)」

「僕には収集癖があって、気がついたらこんな状態に。自宅に入り切らないアイテムは、ほかの倉庫にも保管しています。もうこれ以上増えるとまずいから、今はオークションサイトを見ないようにしています」

そう笑う内田さんが、スター・ウォーズに魅せられた理由とは?
「子供の頃に『スター・ウォーズ』を観た時のワクワクが忘れられない。その時の感動はもう越えられないけれど、少しでも当時の高揚感を思い出したいからアイテムをコレクションするのかもしれませんね」

スター・ウォーズに対するこの“高揚感”は、クルマが好きな理由にも通じると、内田さんは続ける。「僕はモノとして好きなクルマを買うから、愛車を見ているだけでワクワクする。一台が持つストーリーを感じながら運転席に座ればさらに胸が高鳴るし、エンジンをかけたらもっと興奮する。そしてアクセルを踏み込むとアドレナリンが出まくります(笑)。その高揚感を感じたくて好きなクルマに乗るのだと思います」

整形外科医・内田宙司の家族
自宅からクルマで5分くらいの場所にある〈内田宙司整形外科〉のクリニック前に到着。幌はもともと自動開閉だったが、挙動が遅いので、今では手動で開閉しているとのこと。

内田さんがこれまでに愛車として迎え入れたのは全部で15台。現在、16台目を神戸で製作中だ。

「クルマの背景にストーリーがあると、僕はより一層その一台が好きになれます。もうこの先何台乗れるかわからない。残り少ないクルマ人生をどう過ごすかを考えた時、僕は自分と同じ年のクルマを探したんです。どう?ちょっとロマンティックでしょ?(笑)車体はメルセデス・ベンツの300SEL(W109)。

このクルマには同じ生まれ年という以外にもストーリーがある。当時、アラブの富豪たちが乗るようなグロッサー・メルセデスと呼ばれるリムジンを同社が造っていました。“リムジン用の大きなエンジンを普通のセダンに載せたら?”という当時のエンジニアの思いつきを首脳陣が許可。もともと素性の良い車体が、良いエンジンを得て躍動した、それがこのクルマ。

1971年、当時人気だった欧州ツーリングカー選手権にAMGはこのクルマを持ち込みます。第5戦のスパ・フランコルシャン24時間で、アルファ ロメオやフォードを相手になんと普通のセダンが総合2位でフィニッシュ!結果、AMGが世界的に知られることに。AMGの原点とも言えるクルマが、今仕上げてもらっている『W109』。これからATを6速MTに(笑)。今はミッションの到着待ちです。

納車後は、今持っているC43とガレージに並べて、新旧のメルセデスを眺めたい。子供の頃、ミニカーを買ったら、箱から出して遊ばずに並べてずっと眺めていたから、やっぱり僕はあの時の感動を追いかけているのかもしれませんね(笑)」

完成まであと一息。同い年のメルセデス

Mercedes-Benz 300 SEL 6.3 (W109)
Mercedes-Benz 300 SEL 6.3 (W109)/メルセデス・ベンツが1968年に発表した「300SEL 6.3」は、高級大型セダンでありスポーツカー並みの速さを兼ね備えた一台。6.3リッターのV8ユニットは、最高出力250PS!0-100km/h加速は、当時フェラーリやランボルギーニなどのスーパースポーツに匹敵する6.5秒というパフォーマンスを発揮。内田さんは1969年式を購入。