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イギリス型フォーク・ロックの端緒を開いた傑作。『Unhalfbricking』フェアポート・コンヴェンション。バラカンが選ぶ夏のレコード Vol.27

ピーター・バラカンが選ぶ32枚のレコードストーリー。「ピーター・バラカンがオーナーのリスニングバー〈cheers pb〉で夏にかけるレコードの話を聞きました」も読む

illustration: TAIZO / text: Kaz Yuzawa

『Unhalfbricking』Fairport Convention(1969年)

イギリス型フォーク・ロックの
端緒を開いた傑作。

サンディ・デニーという素晴らしい女性ヴォーカリストが、この前作からフェアポート・コンヴェンションに参加して、バンドがそのスタイルを固めつつあったときに出したアルバムです。

サンディ・デニーの名曲「Who Knows Where The Time Goes」(邦題:「時の流れを誰が知る」)のほか、彼女とギターのリチャード・トンプスンがバンドの中心になって2人で素晴らしい曲を作り、ボブ・ディランの当時知られていない未発表曲も取り上げているこのアルバムは、イギリスならではのフォーク・ロックのアルバムとして五本の指に入る名作だと思います。

ところが、そんな優れたアルバムを作ったばかりのバンドを悲劇が襲います。彼らがこのレコードを出したのは1969年の夏だったと思うんですが、録音を済ませてから発売までの間に、イギリス中部の都市、バーミンガムでコンサートを開いたんです。

そしてコンサートを終えて楽器車でロンドンに帰ってくる途中、ローディが居眠り運転で事故を起こしてしまい、一緒に乗っていたドラマーのマーティン・ランブルが死んでしまったんです。そのトラウマで彼らはそれまでのレパートリーを全部やめて、方向転換して再出発することに決めました。

実は僕は、マーティンとは個人的なつながりがあったんです。僕が高校生の時、ちょっと上の先輩にブルーズ・バンドをやっている連中がいて、そのドラマーがマーティンでした。僕は特別仲がよかったわけではありませんが、たまに彼が乗っていたスクーターに乗せてもらったことがありました。

僕らの学校でバンドをやっている生徒はたくさんいましたが、まだ無名のバンドとはいえプロになったのは彼が初めてで、僕らはみんなで応援していたわけです。フェアポートは学校の近くのライヴ・ハウスでよくやっていたので、何度か観に行ってました。

このアルバムの曲をあのメンバーの演奏で生で聴くことができなかったのはとても残念ですが、あれから50年以上経って、まさに「時の流れを誰が知る」です。

Fairport Convention

side B-2:「Who Knows Where The Time Goes」

サンディ・デニーがバンドに参加する前に作っていた曲で歌詞も曲調も素晴らしく、リチャード・トンプスンのアルペジオのギターも見事にはまってます。この曲はアメリカ・フォーク界の大御所ジューディ・コリンズほか多くのミュージシャンにカヴァーされました。