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檜原洋平、布川ひろき、伽説いわしが選ぶ、伝える力が光るネタ

漫才、コント、漫談、ギャグ……笑いの伝え方は十人十色。普段は自身の活動でネタ作りに携わる芸人に、笑いの表現力が素晴らしいと思う他者のネタ動画を教えてもらった。

本記事はBRUTUS「伝える力。」(2025年2月3日発売)より、本誌に載せきれなかったコメントを加筆した拡大版として公開中。詳しくはこちら

text: BRUTUS

『町工場』令和ロマン

選者:檜原洋平(ママタルト)

壮大な物語と登場人物を、リアルに想像させる

初めて観たのは2021年、『M-1グランプリ』準々決勝の配信。クッキー工場の社長が車の販売に挑戦するという漫才ですが、1話完結のギャグ漫画のようで好きです。その年、僕らは準々決勝で敗退していて、何をしても元気が出ないくらい落ち込んでいたのですが、このネタの「バカ!バカクッキー!クッキーバカ!クッキー!」のくだりを見て爆笑しました。

そのときに、「今の俺の落ち込み具合を超えてくるくらい面白い〈令和ロマン〉はすごすぎる!この面白すぎる令和ロマンと一緒に仕事ができるなんて、上京してお笑い芸人になって本当によかった」と思いました。

このネタは特に表現力が素晴らしく、くるまくんの眉毛の動かし方や細かい手足の動き、声の抑揚で、登場人物の性格や雰囲気をイメージすることができます。僕にはトヨタの社員さんを演じるくるまくんが、一瞬で米倉涼子さんに見えました(実際本人に聞いたら日曜劇場『半沢直樹』の片岡愛之助さんでした)。

そして〈令和ロマン〉の魅力は、本来1時間あってもおかしくない壮大なストーリーを、面白さをそのままに4分間で見せるダイジェスト力。『町工場』にも4分に収まりきらなかった名シーンがいくつもあるんだろうな、と想像が膨らみました。みんなが理解できる題材を個性的なボケ方で扱う。“間口は広く、視点はニッチに”という姿勢が、いつもすごいと思って見ています。リスペクトです。

『火事』空気階段

選者:布川ひろき(トム・ブラウン)

秀逸なあるあると、無音で観ても笑える大胆さ

『キングオブコント2021』の決勝で披露されたコント。当日自宅で観て唸りました。SMクラブに来た客が火事に巻き込まれるというド真ん中の下ネタなのに、バカバカしさが圧倒的に上回っていて最高。わかる人にはわかる、店で偽名を使う・使わないという秀逸なあるあるが盛り込まれているのもいいですが、知らない人でも楽しめるよう、お笑いに落とし込んでいるところも素敵すぎます。

たまにそういうお店が火事になって、実際にお客さんが巻き込まれてしまうというケースもあったりしますけど、この二人がいたら、間違いなく全員が無傷で助かるんじゃないかと思わせてくれる。冗談抜きで、本当にです。

そして何より、無音で観ても笑えるのがすごいですよね。ストーリー性や演技力の高さ云々ではなく、とにかくバカすぎるなと。〈空気階段〉ほどの人気があったらこういうテーマは選ばなそうだから意外でもあったし、実際“ロックに見られたい”という邪念でこういうネタをやろうとする人もいるけど、二人はごく当たり前にこのコントをしているのが好きです。本当に面白いネタは音がなくても笑えるけど、大胆な動きや見た目の作り方など、このネタはまさにそれだと思います。

『聖徳太子』可児正

選者:伽説いわし(にぼしいわし)

要素は音楽と動きだけ、爽快感バツグンの種明かし

ライブで共演した時、舞台袖から観ていたショートコントです。私が座っている目の前に烏帽子が置いてあって、どうするんだろうと思っていたら、ネタ中に可児正(かにただし)さんが急いで袖まできて装着して舞台に戻っていって、なるほどそういうことか!とひっくり返ったのを覚えています。

尺は1分足らず、音楽と動きだけで、ネタ中の説明は一切なし。前半と後半に分かれていて、前半では一見、可児さんが何をしているのかわからないんです。でも後半が始まった瞬間、これが聖徳太子をモチーフにした物語であり、一体何が起きているのかが分かる。

そして最後にやってくるオチをうっすら想像しながら、スピード感のある展開に圧倒されます。フリとボケだけのシンプルな構成にもかかわらず、ボケがわかった瞬間の快感がすごい。お笑いのネタを観ていてこんなに気持ちよかったことはないですし、種明かしでの開放感、気持ちよさを感じた後、「もう一度最初から観たい」と強く思える。私も何回も何回も観てしまいます。この言語化できない爽快感。短いながらもいろんなところに要素がちりばめられていて、脳みそを操れられているような感覚です。

可児さんはずっと新しいことをやり続けている方。常人には到底考えられないような視点でネタを作り続けています。しかも繊細さだけではなく骨太さも持ち合わせていて、そのバランスに憧れています。時代が可児さんに追いつこうもんなら、可児さんはもっと先に走っていくんだろうなと思います。

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