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不健康な暮らしは、“ゆるやかな自殺”だった。作家・爪切男が美容を通して会得した、素直になることの大切さ

一風変わった女性遍歴を綴った自伝的エッセイ『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビューした作家・爪切男。これまでの作風からは想像もつかないが、最新作は近所の小学生に「太っちょゴブリン」と言われたのを機に化粧水を手に取り、美容と健康に目覚めていく異色エッセイだ。

photo: Haruka Watarai / text: Fukusuke Fukuda

「体重は最盛期で130㎏目前。不健康極まりない生活で“ゆるやかな自殺”を続けているような状態でした。変化できるタイミングを自分でも欲していたんだと思います」

そんな爪を変えてくれたのは、時に厳しく、時に褒めながら、隣で根気強く不摂生を正してくれた妻の存在だった。

「晩飯の時と、風呂上がりにシートマスクをする時が、妻とゆっくり話せる時間。私生活が幸せになりすぎると面白いものが書けなくなるんじゃないかという不安は、いまだにありますけど」

男性は自分の体に無頓着なのをかっこいいと思っていたり、不摂生や不健康を自慢したりしがちなところがある。爪もそんな「男らしさ」にとらわれていたという。

爪切男

「無頼派作家に憧れていたので、世間が与えてくれる“爪切男らしさ”に甘えて余計に自堕落になっていました。周囲からも忠告されないから“今のままでいい”と思っていたけど、実際は“言っても仕方ない”と見放されていただけなんですよね」

美容と出会って自分を大切にすることを知ったことで、自虐や自己卑下をすることが減り、性格も素直になったという爪。

「私とは縁がない雑誌なんだろうなと思いつつも、ずっと愛読していた『BRUTUS』に載ることができて本当に嬉しいです。自分に自信を持つためには清潔感と素直さが必要だとわかりました。大きなアップデートより、できることから小さな革命を。私の場合はそれが美容だったんです」