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〈TRUCK furniture〉黄瀬徳彦が、LAダウンタウンの集合住宅に惹き寄せられた理由

現代の日本を代表する家具職人と言ってもよいだろう、〈TRUCK furniture〉の黄瀬徳彦さんが、LAに新しい拠点をつくったと聞き訪ねることにした。ダウンタウンに位置する大きな集合住宅、そこには、さまざまなアーティストたちが住み、彼らとの交流から、新たな発想が生まれ始めているともいう。未来の家具が生まれる場所へ。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: BRUTUS

もう一つの居場所を持つことで、
人、空間、家具との関わりを見つめ直す。

はじまりは、『TRUCK NEST』だった。

2012年に発行された、TRUCK furnitureの本。黄瀬徳彦さんと唐津裕美さんが、家具作り、店づくり、もの作りを通じて考えてきたこと、そして1996年から2009年までの13年間を記録してきた写真で構成。この本は、バイリンガルで、日本国内だけでなく、世界でも販売された。

今回、黄瀬さんが拠点としてLAを選ぶきっかけとなったスティーブン・ケン。彼がこの本を読み、大阪の店に訪れたことで交流は始まった。

「スティーブンとは出会った瞬間からどこかバイブスが合ったのか、ものすごい時間語り合いました。その後、DEUSのプロジェクトを共同で行うことがあり、LAを訪れました。その後、彼がショールームをつくっている現場に、何度か泊めてもらったりしたんです」(黄瀬)

スティーブンは、カナダ出身、デニムブランドを立ち上げた後、10年前、コリアンタウンでたまたま拾った椅子を解体、その構造を調べ、自分で作り直す、その過程を通じて、家具作りに目覚める。「家具作りの正式な勉強はしたことがない」(スティーブン)。

常にトライ&エラー、自分の肩書も、どれと絞らない自由な発想で、みるみるブランドの価値を高めていく。それに加えて、スティーブンの“常に入口を大きく開いている”スタンスで、事業だけでなく、人脈も広がっていく。妻のベックスとともに、自宅でBDCC(Back Door Coffee or Cocktail or Cinema Club)というイベントを開催。自宅とショールームを新しいコミュニティを創り出すための場として提供している。

「スティーブンは、人間も時間も場所も、なんでもシェアしてくれる。彼が主催するパーティに行くと、世界中のいろんなジャンルの人々が訪れていて、すぐに僕のロフトにも通して紹介してくれる。そのゲストたちの中に、僕らが作った本や家具を持っている人がいる。実際に僕らの家具を使ってくれている人たちと話せるなんて、めちゃくちゃ嬉しかった」

日本にいるだけでは、知ることができないリアルが、新しい価値観を生み始める。

「人と人との出会いはもちろんですが、ここに住んで気づいたことがあります。大阪ならば、試作で作った家具を、自分の家に置いてみて、ああでもないこうでもない、と、出し入れすることができる。でも、このロフトに大阪から家具を送るとなると、簡単に出し入れできへん。

最初に持ってきたダイニングテーブルが、スペースに対して思ったよりも小さかったり。ああ、僕らのお客さんたちも、こういう思いをしながら、買ってくれてるんだって思うと、改めて気も引き締まるし、なんらかのアドバイスもしていけるかもしれんって思ったり」

もう一つの実験の場ができたことが、とても嬉しいと話す黄瀬さん。もともとなんでもチャレンジする、という気質にさらに拍車がかかっている。

住居棟と管理棟の間にあるプールとジャクージ
住居棟と管理棟の間にあるプールとジャクージ。居住者にとっての憩いの場であり、情報を共有する場所。政治、アート、日常生活など、さまざまな話題で盛り上がる。黄瀬さんもこのスペースで、多くの隣人たちと知り合った。

「ここをスティーブンに紹介されて、“ああ、住んでみたいな〜”と思ったとき、たまたま今のロフトの前の住人が引っ越すとわかって。で、一回借りよう!と思ったけど、うまくいかなくて、ほかの人に渡ってしまい。縁がなかったな〜とあきらめていたら、その新しい住人も出る、契約しますか?との連絡があり。

そんときは、あんま前向きではなかったんだけど、唐津に相談したら、“そんなん、契約した方がいいに決まってる”と後押ししてくれて。勢いですね。今こっちで乗ってるバイクも、大阪のTRUCKに撮影で訪れた俳優のマイロ(・ヴィンティミリア)が、いいバイクあるよって紹介してくれた店で買ったんです。

このバイクを買うことで、彼との付き合いも深くなるだろうし、行ったことのない場所や新たな人間関係ができたら、また違った世界見えるやろ、って」

この集合住宅は、元は家具工場だった。そのDNAを引き継ぐように、住人たちは、クリエイティブな仕事に就いている人が多い。日々、プールやジャクージで出会うネイバーフッドたちはいつもオープン。自分の部屋、彼らの部屋を行ったり来たりすることは、家具作りに影響を与えていくだろう。

「90年代から住むチャックのように、歴史が積み上げていくカッコよさっていうのも知ることができた。あんなカッコいい人が隣の部屋にいるなんて、最高でしょ」

なんでも自分で作る、なんでも自分で直す。黄瀬さんが、惹き寄せられるように住むことになった、ロサンゼルス・ダウンタウンの集合住宅には、惹き寄せられるだけの理由と必然があった。