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流行写真通信 第10回:アラスデア・マクレランは永遠の青春を再創造する

編集者の菅付雅信が切り取るのは、広告からアートまで、変貌し続ける“今月の写真史”。写真と映像の現在進行形を確認せよ。

text: Masanobu Sugatsuke

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アラスディデア・マクレランのセルフ・ポートレート/Self Portrait ©️Alasdair McLellan
アラスディア・マクレランのポートレイト/Alasdair McLellan photo by Lex Kembery

「この写真集は自分の記憶を再創造している感じだね」と語るのはアラスデア・マクレラン/Alasdair McLellan。

『ヴォーグ』のエディトリアルから『ルイ・ヴィトン』『バーバリー』などのラグジュアリーのキャンペーンまで手掛ける現在ファッション写真業界最高の売れっ子写真家である彼は自分の集大成とも言える写真集『Home and Away』Vol.1&2をこの秋に刊行した。

アラスディア・マクレラン『Home and Away 1987- 2022 - Volumes I and II』
アラスデア・マクレラン『Home and Away 1987- 2022 - Volumes I and II』

『Home and Away』はマクレランが13歳の時に撮った写真から現在までの、プライベートの写真もファッションの写真も織り交ぜながら、見事な統一感と深い抒情性を持った、まさにフォト・アルバムらしい大著だ。

「この写真集は10代の頃に撮った写真と、2020年に撮った写真を対比して、昔の写真の影響を明確に示していると思う。構成もあえて年代順ではないから、すべての写真はひとつの世界の一部のように見えるはず。僕は35年間、まさに同じような写真を撮り続けてきたんだ」

マクレランは自分が意識して初めて写真を撮った13歳の時の記憶の中にずっと生きてきた。「13歳のある日、ダニエルという友達と一緒にある友達の家までイギリスの田舎道を歩いていたんだ。その時、彼に畑に座るように指示して写真を撮ってみた。それは凄くナイーブで質の悪い写真なんだけれども、その時は初めて構図を考えて写真を撮ったんだ。それが僕の写真の原点だね」

マクレランはすべての写真に自分の記憶の一部を注ぎ込むという。

「どんな写真でも、必ず自分を感動させるものを入れるようにしている。それは自分自身の一部を入れるということ。自分の過去の記憶を写真に入れると、写真は自ずと自分のものになるのだから。そのおかげで他人の写真と違いが出てくるし、コマーシャルのキャンペーンでも単なるコマーシャル写真を超えるものにできる」

そのために一番大事のは何か?キャスティングだと彼は断言する。

「写真が上がった時に人々を感動させる被写体を見つけるのはとても大事。2000年代初頭に写真の仕事を始めた頃、ずっと学校の友達と似ているモデルを選んでいたんだ。単に北部イギリス人に似ているより、何かを思い起こす要素があったらいい。モデルが気に入ってこそ良い写真を撮れるんだ」

Edie, London, 2012 from『Home and Away 1987- 2022 - Volumes I and II』©️Alasdair McLellan (以下同じ)
Edie, London, 2012 from『Home and Away 1987- 2022 - Volumes I and II』©️Alasdair McLellan(以下同じ)

ファッション写真で知られるマクレランだが、「ファンタジーには興味がない」という。「しかし、誠心誠意尽くして創作されたファッション写真は時にドキュメンタリー写真を超える。僕の写真はリアルなファンタジーだと思っている」

彼は写真を親密かつ信頼されるものとするために、マクレランはフィルム撮影にこだわり、ほぼレタッチしない。

「デジタルカメラを否定しないけれど、僕はフィルム写真のほうがずっときれいだと思う。そしてレタッチされた見た目よりも自然な見た目の方が美しいと思うんだ。人が完璧にきれいではない時にこそ一番美しい写真を撮れる。人のかよわさ、脆弱さ(ヴァルネラビリティ)が見える写真のほうがずっと魅力的だよ」

ヴァルネラビリティはマクレランの中で大きなテーマであり、評価の高い彼のヌード写真の重要な要素になっている。

「セクシーで挑発的なヌードよりも、感情的で美しいヌードをつくりたいんだ。人々のヌードに対する古風な考え方を変えたかったし。また僕はゲイだけれど、マッチョな力強い男らしさよりも繊細でエモーショナルな男らしさを提示することはこの写真集の意図でもあるんだ」

Dree and Darryl, Lee Valley, 2009 from『Home and Away 1987- 2022 - Volumes I and II』©️Alasdair McLellan
Dree and Darryl, Lee Valley, 2009 from『Home and Away 1987- 2022 - Volumes I and II』©️Alasdair McLellan

エモーションは彼の大きなテーマとなっている。

「美しい写真か、エモーショナルな写真か、どちらかを選べとしたらエモーショナルのほうだね。僕は常にエモーショナルな写真を撮りたいと心掛けてきた。多くの商業写真やファッション写真に欠けている要素だと思うよ」

マクレランが自分の写真のエッセンスだと語るエモーションの多くは、彼が愛する音楽、さらにはレコードジャケットから触発されている。

「10代の時にマドンナの『トゥルー・ブルー』を買って、『この写真、凄い!」と思ったんだ。今は亡きハーブ・リッツが撮った写真だけど、とてもエモーショナルな写真だった。レコードジャケットのおかげで写真に興味を持ち始めたと言っていいね」

Mum, Tickhill, 2021 from『Home and Away 1987- 2022 - Volumes I and II』©️Alasdair McLellan
Mum, Tickhill, 2021 from『Home and Away 1987- 2022 - Volumes I and II』©️Alasdair McLellan

実は彼の『Home and Away』のデザインコンセプト自体もレコードジャケットに基づいている。マクレランと長年共同作業をするパリの世界的デザイン・デュオ、M/M Parisのミカエル・アムザラグが本写真集ならびにマクレランについて語ってくれた。ちなみにマクレランの写真集はすべてM/M Parisがデザインしており、しかも共同出版となっている。

「アラスデアとの出会いは、2007〜2008年ごろに『ARENA Homme Plus』のエディター、ジョ=アン・ファーニスの紹介で出会って、すぐに親しくなったんだ。それから随分たくさん一緒に仕事したと思う。アラスデアの素晴らしさは、強い一貫性と繊細さだ。彼とは2013年から共同出版で写真集を出していて、それはすべてレコードジャケットに見えるように正方形フォーマットでデザインしている。さらにレコードと同じようにビニールの袋に入れてその上にステッカーを貼っているんだ。今までの写真集をシングルとして考えると、今回の『Home and Away』は大がかりな2枚組アルバムと言えるね」

M/Mのアムザラグはこの2冊組をこう捉える。

「イギリス北部の少年が初めてカメラを手に取った日から、彼を取り巻く世界を深く探究し続けた記録――この2冊は、彼がとてもパーソナルな物語を魅力的に語る、当代随一の語り手であることを証明しているはずだよ」

Daniel, Tickhill, 1987 from『Home and Away 1987- 2022 - Volumes I and II』©️Alasdair McLellan
Daniel, Tickhill, 1987 from『Home and Away 1987- 2022 - Volumes I and II』©️Alasdair McLellan

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