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「TREES FOR SAKAMOTO」は、Facebookのある投稿から始まった

森林保護活動にも力を注いだ坂本龍一の意志を受け継ぎ、立ち上がったのが「TREES FOR SAKAMOTO」。きっかけとなったのは、SNSで全世界に発信されたあるメッセージ。投稿した音楽家の本田ゆかさんに話を聞いた。

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text: Shunsuke Kamigaito / edit: Emi Fukushima

深刻化する環境問題に強い危機感を持ち、自ら森林保全団体〈more trees〉を創立するなど積極的な自然保護活動を続けてきた坂本龍一。その思いを受け継ぐ形でスタートしたプロジェクトが、木1本から植樹ができるドネーションプラットフォーム「TREES FOR SAKAMOTO」だ。

始動のきっかけは、坂本の逝去後にFacebookに投稿された一つのメッセージだった。「坂本さんを愛する人達全員が一本づつ木を植えたらどうだろう?愛と感謝を込めて」。

発信したのは、坂本と長年親交のあったニューヨーク在住の音楽家・本田ゆかさん。彼女は当時のことを、こう振り返る。

「坂本さんの訃報を受け、私を含め世界中が深い悲しみに包まれているように感じました。そんな時、樹木を植える営みは“平和”や“未来”の象徴になると坂本さんが話していたことを思い出して。坂本さんを愛する人々が協力して木を育てれば、大きな喪失感をポジティブなエネルギーに変えられると思ったんです。まるで天からメッセージが降ってきたような不思議な感覚でした」

本田さんと坂本は偶然に導かれるかのように友人になった。本田さんが渡米してすぐ、坂本のスタッフの通訳を担当することに。その流れで本人とも話す機会に恵まれたという。それ以来、食事をともにするなどの交流が続いた。

「かねて坂本さんの音楽に影響を受けていて、私にとっては“神様”のような存在だったので、会う時はいつも緊張していましたが、すごく気さくに話してくださって。ただ、昔から憧れていたことはお伝えできないままになってしまいました」

言葉にできない思いを植樹に託すことができる

尊敬の念や大切な人を失った悲しみは、時に言葉にするのが難しい。しかし「TREES FOR SAKAMOTO」を介して“木を植える”行為に反映すれば、それぞれの思いを具体的に世の中に残すことができるのだ。

「私たち音楽家は、言葉にすれば取りこぼしてしまうような感情や願いを音楽で表現している部分があります。だからこそ、“植樹”のような実際的な行為に思いを託すことの大切さを実感しているんです。いつか肉体は必ず消滅してしまう。しかし、死によって拡散するエネルギーもあるということを坂本さんが教えてくれました。坂本さんの残した功績や思いは、このプロジェクトや音楽作品を通じて植物の種子のように広がり、これからも世界中で息づいていくのだろうと考えています」

TREES FOR SAKAMOTOって?

世界で起こる自然破壊の実情へ理解を深めながら、5つの地域へ木1本単位での寄付をすることができるドネーションプラットフォーム。寄付金は〈more trees〉を介し、必要経費を除く全額が各地の活動団体に寄付される。
HP:http://trees4skmt.org/

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