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〈PHAETON〉オーナー・坂矢悠詞人のお宝自慢。ひそかに蒐集したソール・スタインバーグの作品

品物の真贋・良否を見分けることに長けた目利きと呼ばれる人たち。彼らは買うことを心から楽しみ、集めることに喜びを覚え、やがてコレクターと化す。その審美眼はいかにして磨かれるのか?独自の価値基準を持つ〈PHAETON〉オーナー・坂矢悠詞人さんに、匠ならではの買い物の極意を聞いてみた。

photo: Kazuya Takagi / text: Chisa Nishinoiri

“目垢”のついていないモノにこそ、価値を見出す

〈PHAETON〉オーナーの坂矢悠詞人さんは、「買い物は私の人生です」と明言する。アート、車、時計、家具、ビックリマンシールから土器まで、驚くべき物量のコレクションを有する男は、自分の琴線に触れたモノに価値を見出す。世間的な評価は買い物の理由にならないという。

「まだ世間が誰も注目していないようなものを発掘するのが楽しいし、永遠に発掘し続けていたい。そしてひそかにコレクションして、いつか自分が初出ししたい、という癖ですね。だから“目垢”のついたものにはまるでキョーミがないんです」

世間が注目し始める前に蒐集(しゅうしゅう)した結果、今では価格高騰している家具やアート作品が彼のコレクションの中にはごろごろしている。そんな彼の審美眼に留まりひそかに集めた作家の一人がソール・スタインバーグ。

「線一本で表現する洗練された知性、そして痛烈な風刺。彼の作品を初めて目にした時、電撃が走りました。ルーマニアに生まれイタリアで学び、ファシスト政権下を逃れアメリカへと亡命した、漫画家でありイラストレーターです。どこの国の物語かわからない無国籍感。彼の作品集は18年前にはすべてコンプリートしていて、同じものを何冊も持っています。

けれど、出会うたびに買ってしまう衝動。それが好きということであり、好きなものを買う瞬間ほど、幸せなことはない。好きに勝る買い物理由はありません。目利きと言われても正直あまりピンときませんが、価値が上がるようなものは、確実に“ニオう”とでも言いましょうか(笑)」

『SANATI VE ÇIZGILERI』Yarın Yayınları社
『SANATI VE ÇIZGILERI』
1984年にトルコのYarın Yayınları社より出版された作品集。トルコ語で『彼の芸術と線』というタイトル。「袋を被り、いかにも彼らしい風刺がかった写真の表紙も好きですが、彼の作品集では珍しく中にポートレートが載っています。小さな写真ですが、シャンブレーシャツに黒縁眼鏡を掛けた姿がとても印象に残っています」
『THE NEW YORKER』のポスター 1976年
『THE NEW YORKER』のポスター
1930年代に風刺画家としてイタリアで名声を博していたスタインバーグが41年にアメリカに渡り、初めて彼のイラストが雑誌『ニューヨーカー』に掲載される。「これは『ニューヨーカー』誌1976年3月29日号の表紙となったイラスト《9番街からの世界観》のポスター。彼の作品の中で最も有名な一枚です」