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写真家・松本直也さんの旅。北海道で見つけたユニークな住居と工場と遊具

この2年余り、海外を旅することは制限されてきた。しかし、独自のアングルで世界を見つめる写真家たちは、旅を求め続ける。彼ら、彼女らがこの期間に考えていたこと、そして改めて歩いた日本の風景——新たに撮り下ろした写真とともに紹介するシリーズ、第1回。

edit&text: Seika Yajima

旅することは、心と体のメンテナンス

雑誌や広告でのファッション写真、著名人のポートレート撮影を中心に活動する写真家の松本直也さん。仕事で様々な場所に旅することは多いが、やはり個人的な旅は、何にも代えがたいリフレッシュの時間になっているという。

「自分にとっては、心と体のメンテナンスのようなもの。東京は好きですが、ずっといると体に不調が出てきてしまうんです。普段、コミュニケーションをしている人たちと物理的な距離を置いて、自分と向き合うひとり時間を持つことがとても大事。それが旅をするモチベーションになっています。他県で暮らす友人に会いに1週間ほどの長めの旅をすることも多いのですが、ずっと一緒というわけではなくて。カメラを持って、単独行動をする時間が長いですね」

そうしたスタンスは、国内でも、海外でも変わらない。ここ数年で行った海外への旅で印象的だったのは、スウェーデンだそう。

「その旅も友人を訪ねるのが目的でした。中古カメラ屋に行って欲しかったカメラを購入。『Canon Autoboy JET』というカメラの海外版で〈EPOCA〉というロゴが入っているものです。それを片手に、なんとなく気になった公園をあてどなく歩いてみて。海外に行くと、どんな景色も目新しく映るけれど、自分が写真を撮る基準はそういったところにないんです。どんな国に行っても、わりとどこで撮ったのかわからないような写真を撮っているのかもしれません。取り立てて、観光名所にも行かないし。スウェーデンでは、公園に植わっている木々をずっと撮影していました」

どんな土地を訪れても、衆人が価値づけたものを見るのではなく、自分の心が動くものだけを見ること。それが、松本さんの写真であり、“心の旅”と言えるだろう。コロナ禍で向かったのは、北海道だった。

偶然見つけた、ユニークな住居と工場と遊具

「帯広に友人がいるんです。東京のとある展示会で偶然出会い、写真や古道具の話で盛り上がり、自分にとっては、極めて珍しく意気投合して。それで、1週間ほど、彼の家に居候をさせてもらいながら、旅をしました。ここでもまた、レンタカーを借りて、単独行動を。都市生活ではなかなか出合えない、造形が美しくて、ユニークな建物を撮ることをライフワークにしているのですが、北海道ではそれに出合う旅をしていました。例えば、色の組み合わせが綺麗な建物、工場、異国の風情を感じる赤い三角屋根の家など。Googleマップを見て、直感で向かうポイントを決めるんです。いわば、ダーツの旅みたいに」

松本直也の写真

使用するカメラは、4x5インチの大判カメラ。いいポイントを探して、構図を決めて、三脚を立て、じっくりとピントを合わせる。

「朝から晩までそうした作業を無心でやっていることがあります。結構な距離を移動していても、なかなか出合えないものなんですよ。だから、ラジオを流して、あてどなくドライブをしながら。運転するのも好きだし、北海道は空の抜けが気持ちよいし、広大な土地を眺めているだけで解放的な気持ちになれます。自分が無意識で求めていることをひたすら追いかけている時間にものすごい快楽があるように思います」

工場、農家の作業場らしき建物にも、造形や色使いが目を引くものがある。

そして、ふらっと立ち寄った公園では、思いがけずすべり台の直線的なカタチに惹かれてしまって、と微笑を浮かべながら話す。

「このすべり台が突然、面白いものとして見えてきたんです。今まですべり台のことを気にしたことなんてないのに。こんなに長くて、綺麗な形をしているのに誰一人、ここで遊んでいる人がいない。そんなすべり台を放っておけなかったというか(笑)。根室港近くの建物は、一見すると倉庫のようにも見えるけれども、住居なんです。撮影していたら住人のおじさんに声をかけられて。最初、怒られるかな、と思ったんですが、家に招いてもらって、この家を造った経緯を教えてもらいました。そんな交流もまた楽しいひとときで、都会生活では味わえない貴重な時間を過ごしていると感じます」

直感で向かうポイントを決め、車を走らせ、車窓から見える印象的な風景を追いかける。それは、どこかロードムービーのようだ。今回聞いた話は、旅のひとコマにすぎない。松本さんの心に横たわる忘れられない瞬間は、写真とともに静かに存在しているのだろう。