海の男たちと漁に出る
集合は朝、というより深夜の2時15分。気温は3℃。定置網漁を体験できる石川県七尾市の〈鹿渡島漁港〉に到着すると、と電灯が輝く漁船が暗闇の海で波に揺れていた。
怒号にも近い掛け声が飛び交っているかと思いきや、あたり一面音もなく静かで、番屋の中ではピンク色の作業着に身を包んだ海の男たちが談笑しながら暖をとっていた。
3時に出港。高まる期待。乗船して約30分で漁場に着いた頃には、穏やかだったムードは張り詰めた空気に一変し、背筋にピンと緊張が走った。
漁師の平均年齢は35歳。皆表情が勇ましい。 
血抜きと神経締めをして鮮度をキープする。 
水をしたたらせた網の中には大量のイカが。 
海を覗き込むとスルメイカの群れ。幻想的。
15名ほどで網をたぐり寄せ、2隻の船が互いにのサインを送りながら距離を徐々に詰める。
海面を覗き込むと妖艶な光を放つスルメイカが優雅に回遊している。響き渡る合図の声。網を一斉に巻き上げる。勢いよく水しぶきが跳ねる。タイ、アジ、サバ、タラ！次々と魚が姿を現した。上空には漁のおこぼれを狙うカモメの大群。360度全方位が大迫力。
息を呑みっぱなしのまま2ヵ所の水揚げを終え、朝焼けを見ながら胸に手をやると、驚きと感動で心臓がバクバクと音を立てていた。
水揚げされてからほんの数分で選別される。 
阿吽の連携で魚群が網で引き揚げられる。 
「よし、メシの準備だ！」と代表の酒井さん。 
タラは頭も骨も余すことなく投入し煮込む。
6時に帰港。
すると、番屋の厨房では調理担当の小畑春江さんがスタンバイしていて、代表の酒井秀信さんがカゴに入れて抱えてきた朝食用の巨大なタラ１匹と真イワシ20匹、スルメイカ10杯を豪快にさばき、テーブル上には“CATCH OF THE DAY”ならぬ“30分前獲れたての魚”がずらりと並んだ。
「昔から“タラは沖で食え”といわれるぐらい鮮度の落ちやすい魚。刺し身はめったに食えない」と言う酒井さんの言葉の通り、身はプリッと瑞々しく、嚙むほどに旨味が追いかけてくる。スルメイカは弾力が強く、真イワシは脂身がすこぶる甘い。
そしてネバネバな天然アカモクを混ぜたタイ＆タラのダブルあら汁を白飯にぶっかけた瞬間クライマックス！
定置網漁を見た後だからこそ、漁師飯が細胞の深くまで染み入る。
獲れたてのデカいタラを掲げる小畑さん。 
タラの身は刺し身に。手際がよくスピーディ。 
タラのレバーは汁に入れる。これが旨い！ 
真イワシの刺し身。食感がプリンとしている。 
ご飯と汁はお代わり自由。食事中は酒井さんのトークつき。取材日はクジラについて。30分前まで泳いでいた魚が並び、感極まる。
