旅人:伊勢春日(キュレーター、ディレクター)
旅温泉や郷土料理で松山市のソウルに触れる旅
「愛媛には、器巡り以外にも訪ねたいところがたくさん。特に見たかったのが、道後温泉のアートプロジェクト“道後オンセナート2020”です」
旅の2日目に向かったのは、日本最古の湯といわれる道後温泉。早朝から地元のお湯好きや観光客が並ぶ〈道後温泉本館〉では、保存修理工事中の木造三層楼が大竹伸朗のテント膜アートで覆われている。
「高台から眺めても間近で見ても圧巻!」と念願の作品を堪能した伊勢さんは、愛媛の郷土料理、鯛めしを食べるべく、港町・三津浜へ寄り道。
鯛めしにはご飯に鯛刺しをのせる「宇和島鯛めし」と、炊き込みご飯の「北条鯛めし」があって、〈鯛メシ専門・鯛や〉では後者を味わえる。鯛と昆布だけで炊き込んだ滋味深いご飯の碗は、もちろん砥部焼。隣に並ぶ吸い物や刺し身の器は骨董だ。「砥部焼って陶器や漆器との相性もいいんですよね」
松山市中心部に移動したら、ミカン色の路面電車にガタゴト揺られ、松山城下の目抜き通り、大街道と銀天街へ。ぶらぶら散策した後は、「お昼を食べたばかりですが、松山でコレを外すわけにはいかなくて」と鍋焼きうどんの名店〈アサヒ〉を目指す。
アルミ鍋で現れるのは、つゆも肉も油揚げも甘い松山のソウルフード。そう、松山では、うどんもラーメンも煮物も甘いのだ。「初めて食べるとドキッとするけれど、この甘さがクセになるんです」
さて、器巡りのシメはモダンな砥部焼ブランド〈白青〉の旗艦店〈WHITE/BLUE〉へ。気になったのは、高台が広い“くらわんか碗”のどんぶりだ。砥部焼の伝統的な形はそのまま、大きめサイズで作られている。
「姿もいいし、持つと安定感があってなおさらいい。家で映画を観る時にポップコーンを山盛りにして抱えたくなる。そんな愛嬌も感じます」
道中で食べた鯛めしの茶碗も居酒屋ラーメンの碗もオーベルジュの皿も、みな砥部焼だった今回の旅。瀬戸内海の凪のような穏やかさと、民藝の流れを汲む実用の美しさで人気の砥部焼だけれど、実は料理を食べる時に器から立ち上る控えめな愛嬌も大きな魅力。それは使った人にだけわかる、一生モノの喜びだ。
〈道後温泉本館・道後温泉別館 飛鳥乃湯泉〉
〈鯛メシ専門・鯛や〉
〈鍋焼うどん アサヒ〉
〈WHITE/BLUE〉
モダンな砥部焼のショップで真っ白な「くらわんか碗」を購入。
砥部町出身の建築家、岡部修三が立ち上げた砥部焼のブランド〈白青〉の旗艦店。伊勢さんが迷わず選んだのは、伝統的な形をベースに作られたどんぶりサイズのくらわんか碗。「くらわんかは、江戸時代に長崎や大阪でも作られた庶民の碗。
川を渡る客船に近づいて、“酒くらわんか、餅くらわんか”と囃しながら食べ物を売った“くらわんか舟”がルーツです」とスタッフ。
高台が広いのは、不安定な船上で使っても安定するから。確かにすこぶる持ちやすく、なるほど!と納得させられる。伊勢さんいわく「真っ白な碗に白いシチュー、という使い方も楽しそう」。
〈喫茶マリモ〉
〈伊織 道後湯之町店〉
MODEL PLAN
1日目
10:00 80余りの窯元が集まる砥部焼の里へ。〈梅山窯〉で工房や登り窯を見学後、売店で器選び。
12:00 〈pizzeria 39〉の石窯ピッツァでランチ。
13:30 町を一望できる陶祖ケ丘や陶板の道を散策。
14:00 〈陶彩窯〉で作家ものの砥部焼を買う。
15:00 〈西岡工房〉で鮮やかな色絵の器をオーダー。
17:00 〈TOBEオーベルジュリゾート〉に宿泊。湖に沈む夕日を眺めながら砥部焼の器でディナー。
2日目
09:00 〈TOBEオーベルジュリゾート〉を出発。
09:30 〈道後温泉本館〉で大竹伸朗のアートを眺め、〈道後温泉別館 飛鳥乃湯泉〉へ。蜷川実花による中庭インスタレーションで写真を撮る。
10:30 〈伊織〉でタオルを買ってお土産に。
12:00 三津浜の〈鯛メシ専門・鯛や〉で昼食。
14:00 松山市内を散策し、〈喫茶マリモ〉でコーヒー。
15:00 〈アサヒ〉で鍋焼きうどんを食べる。
16:00 〈WHITE/BLUE〉で、モダンな砥部焼ブラン
ド〈白青〉の“くらわんか碗”を買い、空港へ。
砥部町までは松山空港から車で約40分、JR松山駅からバスで約40分。砥部町内は車+徒歩で移動。レンタサイクルも便利。
道後温泉までは松山空港からバスで約50分。JR松山駅から伊予鉄道市内線(路面電車)かバスで約30分。