富山湾の神秘「ホタルイカの身投げ」。真夜中の海で、光る生命を探せ!
「海のオーロラだ」。数年前、新聞でその写真を見たとき、そう思った。夜の浜に現れる蒼い光のカーテン。その正体は、無数のホタルイカだった。
3月初旬、富山湾ではホタルイカ漁が解禁される。この時期、深海に棲むホタルイカは産卵のために浅瀬に集まる。その一部が浜に打ち上げられ、体に受ける衝撃に驚いて発光するという。この現象は「ホタルイカの身投げ」と呼ばれ、地元では春の風物詩の一つになっている。
ぜひこの自然の神秘を見てみたい。調べると、ネットで「ホタルイカ身投げ情報」なる掲示板を見つけた。浜に集まるホタルイカを捕獲したい人が情報交換する場で、3月に入ると毎日、各所の身投げ状況が投稿されている。網一つで数百匹も掬える日もあるらしく、これはやってみたい!新月の夜に身投げが起こりやすいとのことで、そこに合わせて、富山湾に面した滑川市を訪れた。
丸腰で到着した富山駅。まずは道具を調達すべく、釣り道具屋〈上州屋〉へ向かうと、一番目立つ場所に特設コーナーが。聞くと、全国から“身投げファン”がやってくるのだとか。
スタッフいわく“4種の神器”という網、ウェーダー(胴長)、ヘッドライト、バケツを購入する。ところで、生きたホタルイカとはどんな感じなのだろう。知っているのは食材になった姿だけで、泳ぐ様子が想像できない。というわけで〈ほたるいかミュージアム〉で生態を学ぶことに。
3月〜5月中は生きたホタルイカ(海の中ではほぼ透明なのだ!)や発光ショーも見られ、イメージトレーニングは完璧だ。
選んだ宿はシーズン中、夕食にホタルイカのフルコースを出してくれる〈海老源〉。その朝水揚げされた刺し身から始まり、釜揚げ、串揚げ、鍋など、考え得る限りの方法で調理されたホタルイカを食べると、来るべき夜の海での格闘に向けて士気が高まる。
夜10時。掲示板の情報によると、宿から車で30分ほどの八重津浜で身投げが確認されたとのことで急行すると、海一面が輝いている!が、それはヘッドライトの光で、すでに200人ほどが海に入り、一心に水中を見つめていた。
「そろそろ湧くよ」と、ベテラン風情のおじさん。40年以上ホタルイカ掬いをしているそうで、満潮の時間帯にホタルイカが“湧く=大量に現れる”のだと言う。0℃近くまで冷え込む夜の海。数分海に入っているだけで歯がガチガチ震える。
朦朧としながら海面を見ていると、シュッと何かが横切った。まさに昼間ミュージアムで見たアレ!とっさに網を振って引き上げると、青い光が輝いた。ゴールドラッシュの時代、砂の中から金を見つけた金鉱掘りは、こんな気持ちだったに違いない。「獲った!」と叫びたいが、ライバルに金脈を教えたくない。
そんな小賢しい逡巡をしているうちに光は消え、二度と輝くことはなかった。予言通り、深夜2時頃にホタルイカが押し寄せてきた。浜から網を入れるだけで簡単に掬える。あちこちで掲げられる網の中には青い光があり、熱狂のホタルイカラッシュが到来した。
朝6時、人が消えた浜では打ち上げられたホタルイカを鳥がついばんでいる。それを横目に湯を沸かし、バケツの中で泳ぐホタルイカをゆでて食べる。ちょっと愛着が湧いていたので微妙な心境だが、「いただきます」とは、こういうことなんだ。
東京に戻ってからも浜の様子が気になって、月の満ち欠けや潮の干満を毎晩チェックしている。人間の思惑とは無関係に、自然のリズムに従って生きるホタルイカ。その姿に触れ、自分の中にもう一つの時間が流れ始めたと確かに感じる。
月の時間、海の時間、生き物の時間。あの夜、浜で掬ったのはただの“食べ物”じゃない。それは自分と自然を繋ぐ、何か大切なものだったのだと思う。
他にも訪れたいスポット情報
MODEL PLAN
1日目
11:30 〈上州屋 富山豊田店〉で道具購入。
13:00 〈みちcafé wave〉でランチ。
14:00 〈ほたるいかミュージアム〉で生態を学ぶ。
18:00 〈海老源〉でホタルイカ料理の後、仮眠。
22:00 八重津浜でホタルイカ掬い。
03:00 〈ほたるいか海上観光〉で漁を見学。
06:00 浜でホタルイカを調理して食べる。
07:00 〈スパ・アルプス〉で風呂&サウナ、仮眠。
2日目
12:00 〈新湊きっときと市場〉でお土産購入。
14:00 〈ラーメン一心〉でランチ。
15:00 〈林ショップ〉で器を買い、帰路。
富山湾に面した滑川市までは富山駅から車で30分、飛行機を利用する場合は、富山きときと空港から車で40分程度。
ホタルイカ掬いは深夜に浜に移動する必要があるので自家用車かレンタカーが必須。