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滋賀〈本と珈琲 六月の水曜日〉アイデアは即実行。夜と週末に開く町の実験室

もともと異業種で働いていたものの好きが高じて店を開いたり、心から本を愛してやまない書店員がジャンルに特化した選書で勝負する店を始めたり。ここ数年、個性溢れる町の本屋が増えてきた。なかなか見つけられない貴重な古書からリトルプレス、そして店主が偏愛してやまない良書まで。新たな世界の扉を開いてくれる本に出会う冒険へ出てみよう。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Hikari Torisawa

六月の水曜日(八日市/滋賀)

琵琶湖の東に位置する城下町に夜と週末だけ開く店がある。琵琶湖八景の一つにも数えられる彦根城近く、70年以上の歴史を持つ彦根銀座通り沿いに2020年末に移転オープンした〈六月の水曜日〉。絵本専門店〈えほん チロル書房〉の看板を目印に店の奥へ進むと、店主の宇野爵(つかさ)さんがニッカリ笑う。近隣生まれ、靴屋や服屋、大型書店にも勤務した、村上春樹を愛する40歳が営む、小さくて新しい本屋だ。

自家焙煎のコーヒーが香る空間にヴィンテージの本棚や家具が置かれ、夜の街に柔らかな光が灯される。夏葉社、信陽堂編集室、ナナロク社、書肆子午線、夕書房など、ひとり出版社をはじめとする小規模な出版社から出される小説、エッセイ、詩歌などを中心に、リトルプレスの扱いも。移転前と比べて冊数を減らした古書は、店主の蔵書から選んで並べられ、その一部はクラフト紙の覆面をかぶってコーヒー豆とセットで販売する。

店のオンラインショップでは、月ごとにセレクトする文庫本や、谷川俊太郎の詩集、穂村弘の歌集、絵本『ランベルマイユコーヒー店』、海外文学『西瓜糖の日々』、屋号の由来となった小説などをイメージソースに、豆から選んで焙煎する本のためのオリジナルブレンドをセットで届ける「本と珈琲」のサービスも。「書店の新しい形を模索したい」という思いを形にした気持ちのよい空間に、今夜も人が集まってくる。

滋賀 〈六月の水曜日〉 店内
古本は「みじかい言葉」「場所」など緩やかにテーマを分けて。