「意外に知られていないんですが、シジュウカラは留鳥なので、日本全国どこにでもいます。都市の中にも小さな公園などが近くにあれば必ずいます」と話すのはBIRD ESTATEのプロデューサーの工藤洋志さんだ。
以前は「鳥のことはなんにも」知らなかったそうだが「なんとなく鳥が家のベランダに来たら楽しいかな?と。その辺にある木で巣箱を作って設置してみたんです。4年は入りませんでしたけど」。
巣箱の存在を忘れかけていたある日、シジュウカラが入居しているのを発見し「感動」したのがプロジェクトのきっかけ。「いや、もう活力になりました。仕事で高齢者の介護にも携わっているんですが、お年寄りに介護保険などだけではなく、なにか一日が楽しくなるオルタナティブアプローチはないかな?と考えていたこともあって。これはいいかも、と」。
まずは物件を作ることから始め、
それを設置してもらう大家探しへ。
シジュウカラの特性を7年かけて観察し研究。巣箱の高さ、間取り、奥行き、巣穴のサイズなどを決定。巣穴は足が掛けやすいようにと、内側に向かって拡がるテーパー形状にするなど、細かい施工も研究の成果だ。
「せっかくなら、ちゃんとした良い家に住んでもらいたいですから。ベンチャー大家気分が味わえますよ。家賃は鳴き声、鳥たちからの癒やし(笑)です」
シジュウカラは巣の中でフンをするので周囲を汚さず、エサを与える必要もない。ペットを飼う余裕のないお年寄りにも最適だといえる。そして工藤さんいわく、シジュウカラも「人間みたいにじっくりと」物件を選ぶのだそう。
HPでは入居希望者(シジュウカラ)に
丁寧な物件紹介を行っている。
「4月終わりから5月が入居シーズンなんですが、前年の11月くらいから、この物件に危険性はないか?雨は当たらないか?などをかなり慎重に調べるんです。けれど人と寄り添うというか。人の近くの物件は獣などの危険な敵がいない、ということも知っている。音が激しすぎるところには入居しませんが、人工物にも慣れている。マンションの排水パイプなどに設置された家に営巣できれば安全だと分かっているのかもしれません。だから大家になる人は住んでもらうために、設置場所をしっかり考えてシジュウカラにプレゼンテーションしないといけないんです」
ひとつの巣箱で7~8羽が孵り、6月中旬には飛び立つシジュウカラ家族。移住期間は約1ヵ月半だが、その間1日約100回ものエサを運ぶ親鳥を眺めることができる。
「朝5時から巣箱にエサを運んでいる親鳥を見ると、自分も仕事を頑張らないと!って気持ちになります。巣立ちの瞬間はドキドキするし応援したくなる。都会でシジュウカラの鳴き声を耳にすることもよくあるので、街の見え方も新鮮に感じるようになるはずです」
現在は関東圏を中心に、渋谷区のこども・親子支援センターや高齢者住宅など、全部で40ヵ所ほどの物件が設置されている。将来的には商店街の活性化などにも活かせるのでは、と考えている。