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トップソムリエが選ぶ、4,000円以下の家飲みナチュラルワイン9選〜前編〜

今号のテーマ「ナチュラルワイン、どう選ぶ?」とは最も遠いはずの場所。それは高級ホテルやラグジュアリーなフランス料理店。夜な夜な高級ワインを抜栓し、全日本最優秀ソムリエコンクールでも鎬を削る、文字通りのトップ3人だが、普段飲みはナチュラル、が今日のテーマ。推しの3本ずつを並べてのカジュアルな試飲会を覗いてみよう。

photo: Shinsaku Kato / text: Tadayuki Yanagi / cooperation: Maki Yamamoto

オフに家で晩酌でも、レストランでも使える。
ソムリエが選ぶ基準は?

岩田渉

あの『ブルータス』久々のワイン特集、ということで今日は本当に楽しみな参加です。何しろ過去に出ていたのは、ソムリエ業界でも重鎮の大先輩たちばかり。……ちょっと緊張しますね。

近藤佑哉

そして今回のテーマがナチュラルワイン、というのがいいですね。自分たちは普通にお酒を飲み始めた頃から出会ってますから。お2人が初めて感動したナチュラルワインってなんですか?

岩田

よく覚えてます。ニュージーランドのオークランドに住んでいた頃、ワイナリーまで訪ねて行ってオーナーのジェームズ・ヴルティッチから飲ませてもらったプロヴィダンス。これは何かが違うぞ?とはっきり感じました。

井黒卓

初めて……ということでいえばフランスはロワール、サンソニエールの、ロゼ・ダンジュール。「ワインはこうあってしかるべき」から「こういう世界があってもいいんだ」と、考え方をガラッと変えるきっかけになりました。

岩田

そういう近藤さんは?

近藤

定番かもしれないですが、ボージョレのイヴォン・メトラですかね。ボトル差もあるけど、バチッと当たった時はすごい。あとはとてもレアでなかなか飲める機会がありませんが、山梨のボー・ペイサージュに初めて出会った時は、感動しました。

井黒

それでいうと、一番衝撃を受けたのは、ニュージーランドのベル・ヒル。ここのピノ・ノワールは本当にすごいです。〈ロオジエ〉ではDRCやアルマン・ルソーなどを開ける機会も多いですが、正直、そういうトップクラスのブルゴーニュと比べても遜色ない。

岩田

僕の場合、そんなわけでニュージーランドでの原体験がすごく良かったので、産地も造り手も、いろいろと飲んできました。ターニングポイントになったのはアリアンナ・オキピンティ。正直なところ、イタリアのナチュラルは過激なものも多くて、それまであまり良い印象を持っていなかったんですよ。ところが、彼女がシチリアの土着品種から造るワインは、ネロ・ダーヴォラにしろ、フラッパートにしろ、ピュアで透明感があっておいしい。これこそ、毎日飲みたくなるワインですね。

土地の個性を反映したもの。
それが、ナチュラルということ

井黒

ところで何をもってナチュラルワインと呼ぶか、ですが……。

近藤

ブドウ栽培で化学肥料や農薬を使わないのは当然として、醸造でも、市販の培養酵母や亜硫酸(酸化防止剤)を添加せず、自然の力で造っているワイン、というのが僕の認識ですね。

井黒

僕はハンズオンかハンズオフかの問題とも思っていて。最近、ちまたでいうナチュラルワインにはハンズオフ、つまり人の手が介入しないワインが多い。発酵タンクにブドウを放り込んだらそれっきりの“ほったらかしワイン”。そういう中にはおいしいものももちろんありますけど、やっぱり難しいワインも少なくない。

岩田

いくら“自然”でも、欠陥のあるワインはナチュラルでもなんでもないと思う。知識や経験のバックグラウンドがあるからこそ、計算ずくでほったらかしが可能なんですよね。豪州のナチュラルワインの聖地バスケット・レンジで知り合ったある造り手は、オーストラリア・ワイン・リサーチ・インスティチュートに勤務するバリバリの研究者なのに個人ではハンズオフのワインを造っていて、それがまた実にクリーンなんですよ。

井黒

亜硫酸が無添加かどうかは実は本質ではなくて、ナチュラルっていうからには、その土地を感じられることが一番重要。極論をいえば世の中にあるワインは2種類しかない。一つは工業的に大量生産され、安価に提供されるワイン。もう一つは職人気質のワインメーカーが本気で造っているワイン。後者はそのほとんどがナチュラルだと僕は思います。

近藤

なるほど。では、そろそろ今日のボトルを開けましょうか。

キンキンに冷やして
夏に飲みたい白から

岩田

さて、家飲みのナチュラルワインを、4,000円以下で各自3本推薦するのが今回、僕らに課せられたミッションですね。まずは近藤さんセレクトの、コスタ・ディ・ラから開けてみますか。この330エス・エル・エムですけど、瓶底にかな〜りたっぷり澱が溜まってますね。注ぎますよ……っと、グラスに入っちゃうくらい。

近藤

ワインの澱は、ご飯にかけるカツオ節みたいなものですからお気にせず。これは冷蔵庫にバーンと入れて、キンキンに冷やして、夏にゴーンと飲みたい一本です。疲れたなぁって日にこういうのを飲むと、癒やされるんですよ。

岩田

澱の旨味も感じられますね。次、南アフリカのシュナン・ブラン、ケイジは誰のセレクト?

井黒 

はい!家では白しか飲まないんですよ、僕。料理とのペアリングをコメントしながらじゃなく、晩酌にテレビ見ながらただ黙々と飲むことが多いですね(笑)。なので、今日は3本とも白。軽やかな白、ボディのある白、アロマティックな白、とバリエを分けました。ボディのある白として選んだのがこのシュナン・ブラン。家飲みだとシャルドネはややヘビー。シュナンは酸があるから、飲み飽きないのがいいと思います。

近藤

シュナン・ブランがもう一本ありますよ。ニュージーランドのミルトン・ヴィンヤーズ。

岩田

こっちは僕のチョイスです。ちなみにこれ今、普通に店のバイ・ザ・グラスで使ってます。

井黒・近藤

へぇ~!(驚)

岩田

菜の花とか苦味を伴う野菜や山菜と合わせるとばっちりです。ワイナリーにも何度かお邪魔したことがありますが、植物や動物、それに人が自然の中でつながっている様子が垣間見える。それを理解したうえで飲むと、世界観まで深く味わえます。まさに、ワインはありのままの姿を映し出す鏡だなと思いました。

近藤 

ミルトンがもう一本ある。

井黒

僕が選んだヴィオニエです。確かにシュナン・ブランもいいですが、ここが造る甘口のヴィオニエが衝撃的に旨いんですよ。フランスの名門ギガルが造る甘口コンドリュー、リュミネッサンスみたい。でも甘口は今回は予算超えなので、普段飲み用としてこの辛口のヴィオニエを選びました。

岩田

極力、亜硫酸を入れない造り手ですけど、これだけクリーンでピュアなワインができる。いい姿だと思いますね、これは。

近藤 

次の白ワインのラベルは……天使が大砲撃ってる(笑)。

井黒

それも僕のチョイスで、イミッヒ・バッテリーベルク。実は僕、白の品種ではリースリングが一番好きなんです。

岩田・近藤

それは意外(笑)。

井黒 

以前、知り合いのショップに「何か白で2本くらい送って」と頼んだら届いたのが、ここの上級キュヴェで、めちゃくちゃおいしかった。これはそのカジュアルバージョンですが、家でぐびぐび飲むのには最高ですよ。

右から〈ロオジエ〉シェフソムリエの井黒 卓、〈銀座レカン〉シェフソムリエの近藤佑哉、〈ザ・サウザンド キョウト〉シェフソムリエの岩田 渉
コンクールでは火花散らす3人だが、普段は戦友。テイスティング中も終始笑顔なのは、お互い推しのワインがおいしかったから?

グランメゾンで使われる
ノーブルなナチュラルも

岩田

次はオーストラリア、ブラインド・コーナーのピノ・グリージョ。イタリア・フリウリの“ラマート”というスキンコンタクトの製法を使ったワインですが、クリーンで、“ナチュラルとはこうあるべき”という教科書的な一本。

近藤

あ、これはペアリングで使ったことがあります。

井黒

お~〈レカン〉で⁉ どんな料理と合わせたの?

近藤

キジのパテ・アン・クルート。ガストロノミックな料理とも合う、ノーブルなワインです。オフに飲むなら……どうだろう、点心かな。シュウマイをつまみながら。実は今日選んだクレアルトのマルカレオーネというグリニョリーノ100%のワイン、これも今ペアリングで使っています。

岩田

色のわりにタンニンのしっかりした感じですね。

近藤

〈レカン〉では、鹿のカルパッチョに合わせてます。家飲み用に興味本位で買ってみて、いつか使えるかな~と思ってたら、この皿で「来た!」と(笑)。うちの店のペアリングは“ディスカバリー”が売りなんですよ。ラベルがこれまたインスタ映えします。

井黒

クロアチアのピクェントゥムを選んだのは?

近藤

それも僕です。

岩田

攻めるね~(笑)。

近藤

お2人に喜んでもらえるかな……。どうも緊張しますね(笑)。こちらは、マルヴァジアを果皮ごと発酵させたオレンジワイン。オレンジって結構エグ味が強いのも多いじゃないですか。日頃からそうでないタイプを探していて、見つけたのがこちらでした。

井黒

おぉ、これいいね!

近藤

良かった。うちは子供が寝た後、ウーバーを頼んでバンバンいろいろな料理を広げて妻と2人で夕食、という時にこんなのを開けるんですよ。ほどほどの渋味が心地よいテクスチャーを作り、旨味もある。いずれ店でも使ってみたいですね。

岩田

最後は僕から。ブションのパイス・サルヴァヘです。

井黒

それ、僕も迷ったやつだ!ただ今日は白を優先させたので。

近藤

我が家のセラーにもありますよ。安くて旨い。

岩田

なんだ、みんな好きでしたか。にしても今日は、お互いの選びが似てましたねえ(笑)。

井黒

ここに行ったことがあるんですよ。チリのマウレ・ヴァレーにあって、自生のパイスという品種で、つるがいろいろな木に絡みついているんです。で、収穫はハシゴを上って房を切り取る、というもうすごいワイルドなスタイル。

近藤

ほぉ~、ラベルのイラストはそれを表したものなのか。

井黒

サルヴァヘはフランス語のソヴァージュ、英語のワイルドです。ほぼ管理していない、究極的にナチュラルな栽培ですね。

岩田

赤ですけど、冷やし気味の温度で飲みたくなりますね。

近藤

軽やかなのに、野暮ったさもある。そこがまたいいですね。

井黒

ところで今気づいたけど、今日はフランスが一本もない。

岩田

あっ!ほんとだ(笑)。

近藤

カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネのような、いわゆる世界で代表的な品種もないし。

井黒

そして産地はニューワールドが半分以上。ナチュラルな造りが世界中の様々なエリアに広がっているってことでしょうね。

岩田

確かに。そしてさすが、どれも魅力的なワインばかりでした。

近藤 

おかげでレパートリーが増えましたよ、家でも店用でも!

撮影協力/リーデル・ジャパン